『続』の章(七)
ううん、とねねは唸る。
二日連続で夜の学校に行くのは不味い。
しかも、今日の予定に兄のアルバイトが入っていなのだ。
確実にバレる。
「先生、わたし、昨日も肝試しやって兄にバレたんです。二日連続なんて無理ですよお」
泣き言に聞こえるかも知れないが、真実なのでサクラに言う。
「そうなのか。うーん、先生から夜波の家に連絡入れて手伝ってもらっているんですけど~て効くと思う親御さんか?」
「ど、どうでしょうか。先生がいるのと連絡してくるなら大丈夫かもしれませんけど」
サクラと百合姫が腕を組んで、首を傾げる。同じ動作で笑えそうなところだけれど、笑えないので、ねねはちょっとだけ、うんざりした顔にしておく。
「同性だし、送るので、といけるか?」
「あら、サクラ。今の時代も同性は恋の相手でしょう? 自分を棚に上げちゃって」
聞こえないのは分かっているのだが、百合姫の言う通りなので、じとっと見る。
「今の学生って何時に寝るんだ? わたしの時は十時には寝ろって言われてたけど」
「えっと、朝、起きれるなら、いつ寝てもいいって、わたしは言われてます」
なるほど、とサクラが呟いて「やっぱ七時と八時がキモか」と続けて呟いた。
「先生、なるほどじゃないです」
「んー、夜波のご両親が安心する肝試しとは……兄貴がいるって言ったよな」
「そうですけど」
あ、とねねは気づく。これは、
「兄貴も連れて来い」
ああああ、と叫びたい気分になったのだ。
* * *
父と母には「おにぃちゃんの友達で教育学部の友達がいるそうだから、勉強を教えてもらいたいたくて、夜になっちゃうけど教えにもらいにいってもいい? おにぃちゃんも一緒だから」と苦しい言い訳をしたのだが、兄の真面目さ信用と、両親に対してのねねのやらかしがないので「いいよー」と二つ返事で許可され、さらにはお土産のプリンまでもらった。
「いやーごめんね」
サクラは、本当に謝罪しているのかという雰囲気で、ねねの隣を歩く、
非常口から入り、当直室にした小会議室に向かえば、サクラと百合姫が迎えてくれて「やあやあ」と兄を絶句させた。
途中まで「夜遊びなんて」と口にしていた兄は、本当に先生がいることに何とも言えない顔をして「ねね、本当に大丈夫なのか」と言われて、
「うん」と小さく肯定する。
じゃあ、早速と懐中電灯を持ち、サクラと百合姫が出て、それに続き、懐中電灯を夕日とねねが持つ。
初日のくだりで夕日は驚かされてバラバラになることを考え、ねねにも懐中電灯を持たせたのだ。
「夕日くんは大学生だっけ」
サクラが明るく口にする。
「はい、医学部に通ってます」
「あら、凄い」と百合姫が答えて「あの今回の件、妹から聞いてますけど、本当に肝試しみたいなことをやるんですか」と夕日が言う。
ねねが顛末を上から下まで答えたので『裏田さん』を探すというのを疑心暗鬼状態なのだ。
そんな怪談、噂の手のひらで終わらせて置けばいいものを、わざわざ探すとなれば「おかしい」の一言だ。
あまり怖いこと、怪談について夕日は信用していない。簡単に言えば、あるものはあるかもしれないし、ないものはない。というスタンスだ。少しばかり、ねねに似ている。
「そういえば聞いたけど、さかさの卒業生に七不思議を聞いたんだって?」
その怪しい雰囲気なんてなんのその、サクラは夕日に問いかけた。
「あっ、そうでした。ねね、遅くなってごめんな。今日の夕飯時に、やっと返事がきて。なんか色んな人に聞いてたらしい」
「そうなんだ」
前を向いて歩くサクラは、ちゃんと聞き耳をたてていることだろう。
「えっとなあ」
夕日がズボンのポケットから取り出してトーク画面を見て読み上げる。
「まず。体育館で片付けをしていると足を掴まれる。プールが赤くなる。音楽室から音が聞こえ、見に行くと人影がピアノを弾いている」
「あ、それ私ね」
夕日が読み上げている最中に百合姫が突っ込む。
もしかして、音楽室の鍵も百合姫なんじゃなかろうか。
「音楽室の鍵が開いており、窓が開いてる」
「これも私だわ」
「黒い人影が前方にいて、追いかけられる」
それには違う違うと百合姫は首を振る。
「人形を背負った『人形さん』という存在がいる。美術室の教壇に首が置いてある」
こんなもんかな、と夕日は、ねねを見て言う。
「おにぃちゃん、あとでわたしにもメッセージ送って」
「いいけど、こんなことをしているなら、にぃちゃは、ねねの味方にはなれないぞ」
夕日の重い声に、ねねは黙る。それもそうだ。もし、自分と夕日の関係が反対だったら心配で仕方がない。
物理的にも夜の学校は危ないのだ。
「悪いね、夕日くん。今回、誘ったのは、わたしなんだ。夜波は悪くない」
「ですが、何を思ってねねの誘ったんですか」
「夜波は一日目で『裏田さん』を見てる。そのエンカウント率を頼りにしているんだ」
当直室から出て、二階に上がり、特別棟へ行く渡り廊下を歩く。
今のところ、誰とも会っていない。あの生徒会とも会っていない。
きょろきょろと光源はないかと、ねねは探すのだが、もしかして、こちらは三本の光りがあるせいで隠れている可能性がある。
「……そうだ、夕日くんにこれを渡しておくよ」
そう言ってサクラが懐を探り、夕日に警棒を渡す。
「
「どっちにしろ物理は効くかなって思ってる。それにわたしはいいけど夕日くんは夜波から離れないでくれ。わたしを見捨てることになってもだ」
その声音は固く、本当にそういう事態になったらサクラは突っ込んで行きそうなぐらいで、不安がねねを襲う。
「そうだそうだ。七不思議。夕日くんの時も、あれだな、プールが赤くなるは共通か」
「あと足を掴まれたと首があると音楽室も同じに見えます」
話を変えたサクラは夕日に言い、夕日も結果を擦り合わせる。
ねねは心の中で「音楽室は全部、百合姫先輩」とネタバレを閉まっておく。
「あと首の存在ですけど、ねねが聞いた『転がる首』と先生の首のも似たような感じですね」
頭の中で四人は思案して、
「首の出現場所は違う。あとそれぞれで違うのは石膏が動く。首の持ち主が追いかけてくる。『隠しさん』と『人形さん』の存在ですね」
夕日が片付けると、
「古いのが『隠しさん』その次に『人形さん』さらに次が『裏田さん』」
ねねは指折り数えて『さん』がつく物を上げてみる。
「そうなると有害なのが『隠しさん』で無害と言えるのが『人形さん』と『裏田さん』。背負っているものが同じに思えるなあ」
サクラがまとめて「ん」とねねに顔を向ける。
「『隠しさん』は昔すぎて、みんな知らないだろうし『人形さん』は、多分OBの人たちから聞く人がいてもおかしくない。『裏田さん』はまだ続くだろうし、消すのならおにぃちゃん時代の七不思議を流す感じかな」
「音楽室は私がやめればいいだけだものね」
百合姫の言葉に「ん」と笑いそうになって堪える。
「もう結構な人が肝試しをやっていて『裏田さん』以外のものを見ていない。それでなくとも今は七不思議が揃ってない」
ねねは肝試しを行った人たちなら、この円盤を裏返した状態にできる。
OBの人が語り、その『裏田さん』以外に会っていないということは、全部『嘘』にできるはずだ。
「まずは下からいくか」
特別棟に着いてサクラが階段の方向に明かりを向ける。
『人形さん』も『裏田さん』の元だと思えば「背負ってるのは人形かー」なんて呆れるかもしれない。むしろ恐怖から抜け出し、この話題は終わりに向かう。
光明が見えてきて、ねねはふんすふんすと鼻をならす。それに気づいた夕日が「どうにかなりそうだな」と言ったので「うんっ」と答えた。
「先生、ここまで整理できると『裏田さん』探しは無駄だと思うのですけれど」
ねねの肝試しを止めさせたい気持ちだろう、夕日はサクラに問いかける。
「こうやって整理したら、なんともないよな。わたしもそう思う。だから、今日で『裏田さん』探しは終わりかもな。わたしも当直室の先生としての役割を真っ当すべきだ」
そうサクラは言ったが、ねねは部活前のサクラの瞳を知り、犯人を見つけてやる、と思っているのではないかと心の中で思うのだ。
だから『裏田さん』にも意欲的でエンカウント率が高いわたしを連れている。
ん、とねねは思う。なんで、わたしがエンカウント率高いって思うのだろう。
「う、うわああああアア!」
下まで着いた時に大声が、悲鳴が聞こえた。
「きゃああああ!」
「上か!」
サクラが引き返し、百合姫も階段を上がっていく。
ねねも追いかけ「ねね!」という夕日の声も聞こえたが『噂』を消せそうな話を聞いても『本物』を、もう一度、見られるなら、どこか心の中で「正体を見る」と生徒会長の悠大の言葉が頭の中にある。
後ろから夕日が追いかけてくるのが分かった。ねねの足元が光っているから、それを夕日が転ばぬよう配慮してくれている。
「そこまでだ!」
上がりきり、丁度、渡り廊下の真ん中に『裏田さん』はいた。
長身に学ラン、背中がもこもこしているのは人が張り付いているからだろうか、目の前の本人は「はああ」と呻き、手には鉄パイプを持っている。
攻撃しないのではなかったのか。
ねねは、ぱっぱっと周りを見ると、腕を押さえる生徒会長の悠大と肩を押さえる純菜に、こちら側とは反対に二人、生徒会の人か。
そして、ねね側にカチカチと警棒を鳴らすサクラと同じく信じられないものを見たけれど、ねねを守るために警棒を伸ばす夕日がいる。
『裏田さん』は『不利』と思ったのか、なにも持っていないだろう生徒会側に突進して行くところで、素早く動いていたサクラが背中を殴った。
しかし、ぐちゅと音がして、廊下に臓物らしきものが落ちる。
つまり、避けられたとして『怪物』は、廊下を走って行ってしまった。
「結城! 夕日! お前たちは非常口から外に出ろ! あれはわたしが追う!」
「先生!」
ねねは声を張り上げるが、サクラの背は遠くなっていく。しかし、百合姫も追いかけていったので、このことは話ができるだろう。そうできる――。
だっと、ねねは走り出した。
「ねね!」
座り込んでいた結城を見ている夕日の声を聞いたが、ねねは止まらず二人の後を追う。
なぜだ分からないが、このままだとサクラが『裏田さん』を殺してしまいそうだったからだ。
なら止めないといけない気がする。
これ以上、サクラの瞳を曇らせないように、つらい思いをさせないように、復讐をしないように。
なんとなく、ねねは『隠しさん』が消えてしまったあとにできた『人形さん』と『裏田さん』に共通点を見つけたのではないだろうか。あるとしたら背中の『モノ』について検討がついている。
階段を下りて『裏田さん』とサクラと百合姫を探す。サクラの懐中電灯が見えない。
まさか、返り討ちにされたのではないかと周りを慎重に見渡す。
「せん、せい? ゆりひめ、せんぱい?」
探るように歩いて一階の特別室に続く渡り廊下を照らす。
「ねね!」
叫んでいるのは百合姫だ。ぱっと光りを向けると、今まさに蹲るサクラを殴ろうとしている『裏田さん』がいて、その目があるところに懐中電灯を向ける。
「ああ、ぐっ」
直射されて、昨日みたくふらついた『裏田さん』にタックルすれば、ちゃんと身体があるではないか。
はぁはぁと肩で息をしながら転がっていたサクラの警棒で殴ってしまえ、と思ったところで「ねね!」という夕日の声がして振り向く。
「にぃちゃっ」
はっと、また『裏田さん』の方を見ると『彼』は、ねねの方に鉄パイプを振り上げている。
勢いに目を瞑る。
「実体がありゃ、こっちのもんなんだよ!」
サクラが間に入り込み、振り上げていた『裏田さん』の腕を持ち、背に背負うと、そのまま地面に叩きつけた。
「アアアッ」
男の声と地面に叩きつけたことで広がった赤に、サクラの喘鳴、ねねの前に夕日が入り込んで、血らしきものをつけた『マスク』を取り、
「救急を呼びましょう。上の二人も殴られましたし」
「ああ、
夕日が携帯電話を取りだして、救急にかけている間、百合姫は床に転がり、気を失っている新川を見て、
「違うわ」と口にしたのを、ねねは聞いてしまった。
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