第29話
斧と鈿音の交渉は続く。
「単刀直入に言えば、本当にこのままお前達2人を拘束するという手もあるんだ。いいか?交渉ができる?お前達には交渉の余地など最初からない。」
“下がっていいぞ”と言われて、鈿音達を連れて車を運転してきた、ミニ四駆を操作できる男は体よく入り口にスタンバイしていた。
まだ仲間もいるのかもしれない。2人は実質的に囲まれている状況だった。
「うーん、うーん?そうね。私たちは、午後8時に待ち合わせをしてるのよ。仲間達が黙ってないわよ!」
鈿音が考えるのをやめたことに気づいて、素良は顔を手で覆った。
「集団で動いているのか。根戸鞠雄も一緒なんだろう。」
「どうしてそれを?」
今度はオッチョチョも顔を手で覆った。
ミニ四駆男も、カツ丼男も、オカミも必死に笑いを我慢していた。
「あー。うん。本当に商売関係なく、個人的に聞きたい。どうして交渉できるなんて言ったんだ?」
鈿音は場の様子も気にせずに、自信満々に答えた。
「ふふん!切り札があんのよ。」
素良は疑いの目で鈿音を見つめていた。その光景を、斧は内心とても面白がっていた。
「正直言って、切り札を切るしかないぞ。他のカードが無いんだからな。」
「あるわ。私たちの仲間の情報よ。私の仲間なら能力を知られても大丈夫なはず!」
素良はどうにかここから脱出する方法を探っていたが無駄だった。何度も会話に加わろうとしたが、斧やカツ丼男に制止させられた。
「そうか、ではこちらは根戸鞠雄との関係を明かそう。」
鈿音は特にキャプテンの情報を多めに、そして美琴のことを隠して情報を伝えた。
「ああ。ありがとう。俺は根戸鞠雄と同期だ。以上だ。」
素良は絶望感に膝から崩れそうだった。こちらの情報に対してあちらのは情報とも言えない!完全に遊ばれていることが理解できたからこその絶望だった。
「そんなことだろうと思ったのよ。切り札はとっておくわ今日の午後23時まで。あなたは私に協力すると懇願するわよ。」
何故か勝ち誇った態度の鈿音に素良は絶望感すら吹っ飛ばされた。素良と斧は頭の中に無数のクエスチョンマークが完成されていた。
「確かに、俺の情報を得るのに簡単な方法は俺の仲間になることだな。仲間になれば自らの情報はある程度伝えるよ。」
「だけどこいつらは?」
「ああ。情報を元に雇っているだけ。」
「気になったのは今日の23時までとっておくというところだ。時間稼ぎかな?」
鈿音は素良の方を向いて目配せをした。
素良も理解したが、何故切り札になるのかが分からなかった。
「ヒントあげるわよ。あんた警察官なんでしょ。そこを気にしてたのよ。カツ丼のあの子も同じよね。カツ丼って、取り調べの時の必須アイテムだもの。」
「私はここで1つの要求をするわ。素良くんを解放しなさい。彼に行動してもらわないと、切り札も見せられないわ。私の切り札はあなた達にとって建物魅力的なものなのよ。」
「切り札の正体を教えてくれるのなら解放しよう。」
「チッチッだめよ。情報戦に関してはあんたと私の立場は平等なのよ。」
斧は内心驚いていた。自分が圧倒的に有利な状況だったはずなのに、それが今は崩れ去っている。
鈿音は交渉において、全くの素人というわけではない。
毎年、数十人ではあるが卒業式用の写真を撮影していた。
あの時は、まさに交渉ともいえる機転で相手の良い表情を引き出す必要があるのだ。
さらに、鈿音の決めた映画やドラマの登場人物のように行動するという謎のルールも有利に働いた。
ルールで縛られた人間は集中できる状態なのだ。
斧に対しても、冷静さや、熱意などを上手く伝えることに成功している。
斧自信も、交渉についてはプロフェッショナルというわけではない。現実では警察官だったのだから。現実でも、交渉は自分よりも立場が下の者としか行ってこなかった。
結果、鈿音と素良は最悪を免れた。
斧が天井を仰ぎ見ながら話した。少し前に見せた発言の鋭さは、もはや感じられない。
「はぁ〜。約束してくれ。お前は俺の仲間として行動すると。そして、ピッキング道具は置いていってもらおう。今から2日間レンタルさせてもらう。」
素良はしらばっくれた。
「今は持っていないが?」
いつのまにかカツ丼男が手を差し出していた。
「下手だな。君のような警戒心の強い者が何も持たずにここにくるはずがないだろう。」
素良は渋々胸ポケットからピッキング道具を出し、カツ丼男の手に置いた。
「ということだから。私、残るわよ。やること分かってるわよね。」
「…ああ。大丈夫そうか?」
「ええ。少なくとも、こいつらからは知性を感じるわ。」
カツ丼男が素良を引き止めて言う。
「俺たちについてはどんなことも発言するな。」
「どうせ、全て対策済みだろう。そこの男がな。」
素良は斧を睨んでから定食屋を出た。
残ったオッチョチョと2人、鈿音は早速2階に上がろうとした。カツ丼男が止めに入る。
「いいでしょ?仲間じゃないの!」
カツ丼男が斧に言う。
「正しい選択だったのか?」
「うーん。」
オッチョチョが鈿音に賞賛の声を送ってくれた。
「すごいです!私なんか全然、あなたのことを…その、侮っていました!」
鈿音はオッチョチョが本当におっちょこちょいなんだなと感じたが、オッチョチョを一時は見捨てようとしていたので、笑顔でお礼を言った。
「名前は?」
斧はオカミから渡された水を飲みながら鈿音に尋ねる。
「亀螺鈿音よ。以上よ!」
斧は力なく頷いて、2階に戻ろうとした。
そのとき、定食屋の裏口から、老婆が入ってきた。
鈿音は驚く。
腕にはぷるウォが2つついているのがはっきり見えた。
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