金と視線と濡れた唇
三万円って、こんなに軽いんだ――
初めての報酬を封筒ごしに指でなぞった夜、輪廻はひとりでこっそり濡れていた。
ベッドの上、制服のまま、ブラウスを少し開けたまま。
薄く光る唇を鏡に映して、グロスの粘り気と一緒に、男の視線を思い出していた。
「君、細いのに、ちゃんとあるね」
「脚、長いね、たまらない」
「こういう子に出会えるとは思わなかった」
──どれも言葉としての価値はない。
けれど、男たちの目が自分に集中するあの瞬間、輪廻は**「生きてる」**と感じてしまった。
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次の待ち合わせは、駅近くのカフェ。
今日の“パパ”は、不動産会社の役員で47歳。既婚。
名前は「ヒロ」。でも輪廻は本名を知らない。知る必要もない。
「何が欲しいの?」
「ルブタンのパンプス。ピンヒールの、赤いやつ」
「似合いそう。脚、綺麗だし」
――この男も、脚。
輪廻の太ももにだけは自信がある。
短めのスカート、座ると自然に見えるレースの縁。
わざとじゃない風を装いながら、絶対に視線を誘導する“技術”も、もう身に付けている。
「今日、ホテル行く?」
「ううん、今日は……舐めるだけでいい?」
男の喉がゴクリと動いた。
その瞬間、輪廻の中にぞくりとした快感が走る。
自分の一言で、男の体温が上がる。それを感じられる快楽。
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鏡張りのホテル、レースのカーテン越しの曇った明かり。
シャワーを浴びずにベッドに腰かける輪廻。
制服のまま、ただブラウスのボタンを上まで外すだけ。
「触ってもいいよ」
指が這うたびに、喉元から甘い吐息が漏れる。
でも輪廻の目だけは冷めていた。
男の手の動き、舌の角度、体の重さ――
それら全部を“価値”に変換している。
「わたしの体って、いくら分?」
「この息づかいに、どれだけ出してくれるの?」
その問いに答えるのは、財布の中身だけ。
そして今夜の封筒には、四万円が入っていた。
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翌朝、学校の教室で。
ボサボサの髪をまとめた友人がぼそっと言う。
「輪廻、最近さ……なんか、すっごく色っぽくなったよね」
「え、そうかなあ?」
輪廻は眼鏡の奥で、わざとらしく目を見開いてみせる。
内腿にはまだ、昨夜の残り香がうっすらと残っていた。
「きれいって、こういうことだよ」
そう、誰にも聞こえない声で、心の中でつぶやいた。
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