十七の罹患後症状~pp活のリアル~
通りすがり
見つけてくれるのは、誰?
薄曇りの空から、ぽつりぽつりと雨が落ちてくる。
最寄り駅のロータリー、タクシーもまばらな平日の午後五時半。
傘も差さずに輪廻は立っていた。スカートの裾がじわじわと濡れて、太ももに張り付いていく感覚が嫌いじゃない。
ほどなくして、黒いクラウンがすっと滑り込む。
助手席の窓が下りて、スーツの男が無言でうなずいた。
輪廻は軽く頷き、車に乗り込む。
鼻をくすぐるのは革のシートと煙草の匂い。そしてほんの少し、女物の香水の残り香。
「濡れたままでいいの?」
男が言う。輪廻は濡れた髪を指でくるくると巻いてみせる。
「そっちのほうが、興奮するんじゃない?」
運転席の男は笑わなかった。ただ、ナビにホテルの名前を入力して、アクセルを踏む。
窓の外、制服姿の中学生が笑いながら自転車で通りすぎていった。
(あれが”普通”の青春だってことくらい、知ってるよ)
輪廻は眼鏡を外し、カバンからリップグロスを取り出して唇に塗る。
地味で平凡な顔のはずなのに、光沢ひとつで男たちは勘違いする。
「すごく、そそる顔してるよね。ららちゃん」
いつかの男の声が頭をよぎる。
褒められたとは思わない。ただ、"使いどころのいい商品"にされたような感触が、ずっと肌に染みついていた。
---
ホテルの部屋。
シーツが真っ白で、まるで無菌室みたいに清潔な空間だった。
スカートのファスナーを自分で下ろす。
ワイシャツを脱ぎかけた男の視線が、彼女の太ももに刺さっている。
濡れた下着が張り付いて、冷たく、でも湿っていた。
「ねえ、いま何歳だと思う?」
「え?」
「わたし、実は十四歳だったらどうする?」
男は一瞬だけ顔をこわばらせ、それから薄笑いを浮かべた。
「そんな冗談、やめろよ」
そう言って、ベッドに押し倒す。
輪廻は笑わなかった。目を伏せて、ただ天井の照明を見つめた。
(見つけてほしかっただけなのに)
(誰か、本当の私を)
男の手がブラウスのボタンを外していく。
雨がまだ、窓を打ちつけていた。
---
シャワーの後、輪廻は鏡の前に立ち、制服を整える。
喉にできた赤い痕を見て、リップで隠すか迷ったが、そのままにした。
「きれいって、誰のため?」
鏡の中の彼女は、答えなかった。
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