第38話 春季キャンプへ


 一月も中旬を過ぎた。

 新人合同自主トレでは、色々な練習に慣れるので忙しい。基本的に身体作りがメインで、伸二のメニューの方がキツかったと思う事は多々ある。


 それでも知識が不足してるせいか、色んな事でワンテンポ遅れる事が結構ある。段々と慣れてきてはいるけど、身体的に疲れるというより、精神的に疲れてきた。まだまだこれからも精進しないとな。


 「なんかテレビでよく観る人達を見ると、プロに来たんだなって実感するよな」


 「わかりますわー。俺は早くキャンプインして、東城さんに挨拶したいっすね。あの人を見て野球始めたんで」


 「って事は、真島はオルカファンか?」


 「もちろんですわ。大阪生まれ大阪育ち、一家全員爺ちゃん婆ちゃんまで、熱狂的なオルカファンです。せやから、オルカに指名された時はめっちゃ嬉しかったですよ」

 

 で、これぐらいになってくると、別で自主トレをしていた寮に住んでる選手も帰って来て少し賑やかになる。


 俺は先輩一人一人にきっちりと挨拶をして、身長に驚かれ、素人に驚かれ。まあ、名前を覚えてもらう程度には目立ったと思う。


 大河や神田さんは、先輩選手を見て気を引き締めてるけど、俺はゲームで使ってるキャラの人達だーとミーハーなテンション。


 「ごちそうさまでした。よし、大河ー、今日も付き合ってくれー」


 「かまへんで。すぐ行くから先行っといてくれや」


 「あ、俺も行くぜ」


 「俺も俺もー」


 晩ご飯を食べ終わったら自由時間。

 俺は最近、大河に練習を付き合ってもらってる。


 室内練習場で軽くノックみたいなのをしてもらってるんだよね。キャンプで本格的にコーチ達に鍛えてもらう予定だけど、まともにゴロすら捕れないんじゃ、お話にならない。


 せめて見苦しくない程度にはスキルアップしておきたい。


 大河にノックに付き合ってもらう代わりに、俺は大河のトスバッティングの球出しをしたりする。持ちつ持たれつな関係ですな。


 大河は守備も上手いって評判で、教え方も上手い。お陰で短期間の練習で、ボールを捕球してから、スムーズに送球までいけるようになったような気がする。


 まあ、同期のみんなに言わせればまだまだらしいけどね。もっとスピーディーに動けるようにならないといけないらしい。


 ただ、大河や同期のみんなが口を揃えて言うのは、まずは丁寧にやる事が大切だと。丁寧にやって身体に染み込ませて、徐々に動作のスピードを上げていく。


 慣れたら何も考えてなくても勝手に身体が動くようになるって言われたし、俺もその領域にまでいくのが目標かな。





 「大河も神田さんも馬場も、先に行っちゃってたから数日ぶりだな」


 一月末頃。

 大河、神田さん、馬場は沖縄の宜野座へ先に旅立っていた。二月の頭から春季キャンプが始まるが、有望株は先に宜野座で色んな練習をするらしい。


 残されたメンバーも数日遅れで、沖縄に到着。そこで一軍二軍関係なく、チーム全員が一旦集まって、決起集会というか全体ミーティングみたいなのをしてから、一軍は改めて宜野座へ、二軍は具志川でキャンプ開始だ。


 俺は当然二軍の具志川でキャンプスタート。ただ、ピッチャーはどの球団も仕上がりはそんなに早くないからか、一軍クラスのベテランの人も二軍から始める事もある。


 もう何年もプロでやってきてるから、開幕までに調子を上げる自分のやり方ってのがあるんだろう。


 全体ミーティングはホテルでやるんだけど、相変わらず球団のカメラやマスコミのカメラが多い。人気球団の大阪オルカだからなのか、これが普通なのか。俺にカメラを向けられてなくてもなんか意識しちゃうよね。


 それはさておき、俺は全体ミーティングが始まる前に、寮で会った人達と同じように、挨拶して回った。やっぱり身長と素人は名前を覚えてもらうのに都合が良いぜ。


 「お前が噂の…。真島から話は聞いてる。同期に不思議な奴が居るとな。東城だ。よろしく頼む」


 「狭山一馬です! よろしくお願いします!」


 今の大阪オルカのレジェンド。

 東城廻選手とも初めて会った。


 どうやら、大河が先に俺の事を話してくれてたらしく、ファーストコンタクトはすんなり終わった。貫禄がある人で、俺の方が身長はデカいのに、ちょっと気圧されそうになったぐらいだ。


 大河も大河で初めて挨拶した時は、緊張し過ぎて口が回らなかったとか言ってた。甲子園の決勝より緊張したらしい。


 それはそれでどうなんだって思うが、憧れの人に会うってのはそういう事なんだろう。




 『伸二君と一緒にちょっとだけキャンプは観に行くからね!』


 「え? NTR?」


 『何を馬鹿な事を言ってるのよ。明美ちゃんに怒られるわ』


 「冗談冗談」


 明日からいよいよキャンプ。

 ホテルで由美と電話をしていると、キャンプ地が沖縄って事で、由美と伸二が一緒に観に来てくれるらしい。


 因みにだが、伸二にはばっちりと彼女は居る。中学一年から付き合ってるからもう三年近くなるのかな。


 明美ちゃんって言って、中々聡明な子。

 伸二は顔もカッコいいし、頭も良いし、普通にモテる。その中でも中学の時に初めて明美ちゃんを見てビビッときたらしく、数回のデートを重ねて付き合うに至った。


 うだうだしてた兄とは大違いである。


 「大学の方は大丈夫なのか? スポーツの強豪大学って、入学前から練習参加があるって聞くけど」


 『あるけど、それも高校の卒業式が終わってからだよ。まあ、それでも色々準備があるから、ちょっとだけしか観に行けないけど』


 「なるほどな。二人が観に来てくれるなら頑張らないと。楽しみに待ってるよ」


 最初の方だけでも観に来てくれるなら、俺のモチベーションも上がるってもんよ。


 新人合同自主トレでは、まともにピッチングしてないし、いい加減思いっ切りボールを投げたいと思ってたんだ。


 キャンプが楽しみになってきたな。

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