オカルト

放課後、千穂はタカミオと好きな本の話をした。

タカミオは郷土史や古い文献を見るのが好きなのだと言う。

千穂は自分が恋愛小説が好き、とは言うのは恥ずかしかったので2番目に好きなミステリーが好みだ、とタカミオに話した。


嘘は言ってない。

ミステリーも好きだから。


「へぇ、古い文献?うちの開かずの蔵にもありそう」


「お、いいね。うちにあるのは爺ちゃんが引っ越した時に持ってきたヤツでさ。沈んだ村──巳沢村の全部の家の書類とか文献を一緒くたにして、離れに詰め込んであるんだよね」


「全部!?それはすごい量だよね」


「まあね、でも三世帯しか無かったみたいだから」


「三世帯……少なっ」


「だろ?村自体は小さくなかったらしいけど、やっぱ不便だからさ。皆引っ越していったって。なんだっけ、限界集落?」


「確かに山奥は不便だもんね。でもそういう所にはちょっと行ってみたいよね、面白そう」


「うんうん、生まれる前に沈んじゃってて残念。俺も行ってみたかったわー」


「みさわって良い名前だよね。沢って癒されるイメージだし」


「あー……みは干支の巳、で」


「巳沢村かぁ。あ、うちの弟も巳が付くよ。難しい方のリュウで龍巳。干支だから縁起が良いのかもね」


「なるほど。縁起が良い……」


タカミオはちょっと考え込む様子で口を閉ざした。


「ちーちゃんはさ……オカルトとかイケる方?」


「ミステリーは好きだよ?江戸川乱歩の本も好きだし」


「いいね。俺もそういうの好きでさ、今は離れの文献を整理しながらこの辺りの伝承とか調べてるんだよね」


「こんな田舎に?お化けも下手したら先祖か、知り合いかもよ」



千穂はちょっとおどけて笑った。



「巳沢村にもそういう伝承があってさ、水神様を祀ってたみたいで今爺ちゃんに聞いたり、文献漁ってって水神のこと調べてるとこ」


「水神様ね。私あんまりそういうの詳しくなくて水を司る神様って事だよね」


「水神様って龍神だからさ、何かありそうだなって」


龍。



千穂は祖母の話を思い出した。

祖先が、龍を討ち取ったと。


18時の鐘が鳴った。


「あ、もう帰らないとだ」


「だね。俺も毎日18時10分に、校門のとこでおじさんの車に拾って貰うんだ」


「おじさん。いいね、うちそういう親戚いないんだ。優しい?」


千穂の言葉にタカミオは笑った。


「んー、変人?医者だったのに、やめちゃって趣味の民俗学とか伝承がいいって大学入り直して、今オカルト研究家みたいな」


「ええー?医者やめるとか勇気ある」


千穂は心底びっくりした。

王道から外れる人が、田舎にはあまりいないから。


「なんか、医者って派閥が凄いらしくて、嫌になっちゃったんだって」


「そうなの!?医者ってそうなんだ?」


「うん。一人で山を歩いてる方がいいんだって」


雑談を楽しみながら校門まで一緒に行って、タカミオと別れてから千穂は一人砂利道を歩いた。

家まではほぼ平坦な一本道で、周囲にさほど建物もないので見通しは良い。


夕焼けと黒く見える電柱と電線のシルエットが、今日は少し不気味に見える。

きっとオカルト話をしたからだろうな……。


家の前まで来ると、ちょうど父親が車から降りるところだった。


「千穂。いつもこんなに遅いのか」


「うん。図書館で勉強してるの、その方が集中できる気がして」


「家だとうるさいもんなぁ。ああ、今日からちょっとの間は静かだぞ」


父親は後部座背からスーパーの袋を2つ取り出して、ため息をついた。


「どうしたの?」


「龍巳がな、熱を出して昼間に痙攣起こしたらしくて……隣の河野さんのご主人が車を出してくれて、隣町の病院に行ってそのまま入院になったんだよ。梨花も付き添いだから今日は帰ってこない」


梨花は継母の名前だ。

父親はビニール袋の一つを千穂に手渡し、家に持って入るよう言い付けた。


「父さんは河野さんにお礼のビール渡してくるから」


父親はお酒が入っているらしいビニール袋をぶら下げて、徒歩数分の隣家へ向かった。


千穂は玄関に鞄とビニール袋を置いて、手を荒ってからリビングにビニール袋を持っていった。

カップ麺とビール、菓子パンなどが入っていたのでビールは冷蔵庫にいれておき、他のものはダイニングテーブルに出しておいた。


ほどなく父親が戻り、しばらくこういう生活だな、と笑った。

愛梨の部屋は元々祖母の部屋だったので、リビングの隣だ。

父親は愛梨にメシだぞ、と声を掛けたがドア越しに「要らない」と返事があった。

父親は肩をすくめた。


カップ麺を食べながら、千穂は機嫌良くテレビ見ながら晩酌をしている父親に話し掛けた。


「たっちゃんは大丈夫なの?」


「赤ちゃんは高熱が出るとたまに痙攣が起きるらしいぞ。この辺にちゃんとした子供の病院は無いからな。念のために入院して様子見って事だから、すぐ帰ってくるんじゃないかな」


テレビ画面から目を離す事なく、父親がそう言い、またスポーツ観戦に集中し出した。

千穂はだまったままラーメンを食べ終わり、空のカップを濯いで捨てた時にふと気になった事を父親に聞いてみた。


「ねえ、お父さんはどうして赤ちゃんに龍巳って名前つけたの?」


「ん?字画とアレだ、姓名判断もちゃんと考えたんだぞ。今年は巳年だし、縁起良さそうだろ」


そうだった。


今年は巳年だ────。

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