04・銀の葉商団の伯爵家、ローウェル・グレイという男は

いよいよ、学園生活が始まった。

学生寮を出て、これから始まる講義のために魔術講義室へと向かう。

講義室には、人間が7割、エルフが4割ほどを占めていた。

ん? ちょっと待て。

割合がおかしい。

まあいい。

とにかく、獣人の俺がここにいるのは、なんだか浮いている気がする。

自分で言うのもなんだけど。

そんなことを考えていると、少し離れた場所で、アストレリス国の第一王子「アレクサンダー・ヴァルモント」と、魔法騎士の家系で侯爵の「ダミアン・ラルフ」が仲良く話していた。

この2人は昔から親しい仲だ。

いずれダミアンはアレクサンダーの近衛騎士として仕える予定なのだから、こうして一緒にいるのも当然だろう。

そんな中、まだ姿を見せていなかったエミールが、俺を見つけてまっすぐに歩み寄ってきた。


「おはよう、ルシェル」

「おはよう」


俺の隣に腰かけたエミールは、どこかワクワクしたような様子だった。


「初めての魔法の勉強だね」

「ああ。エミールは、どんな魔法が使えるんだ?」

「私は4つ使えるよ」

「!?それはすごいな」


やっぱり、ゲーム設定通りだった。

火・水・風・土の四属性が使えるのは知っていたけど、こうして現実として見せられると、やっぱりすごいと思う。


「それは本当かい?」


突然、後ろから声が聞こえてきて振り返ると――


いつの間にか、銀の葉商団の伯爵家の長男、「ローウェル・グレイ」が立っていた。

一言で言えば、中性的で謎めいた癒し系のキャラ。

髪は肩まであるゆるやかなウェーブで、光の加減によっては緑がかって見える銀髪。

瞳は琥珀色から深いグリーンに揺れていて、優しくとろけるような目元をしている。

人懐っこく見えて、どこか浮世離れしているその雰囲気は、「実は精霊の血を引いているのでは?」と思わせるほどの美形だ。


「は、はい……」

「それはすごいね。あっ、僕はローウェル。よろしくね」

「エミールです」

「そう、君はシルバーバイト家のルシェルだろう?」

「はい、よくご存じで」


ふふっと妖艶な笑みを浮かべるローウェル。

「ゲームの中じゃ、あんたの護衛兵だったんだけどな」なんて、心の中で軽くツッコミを入れる。


「君は特例で魔法を得たって聞いてるよ」

「そうですか。まさかローウェル様の耳に入っているとは思ってもみませんでした」

「僕の父と、あなたの父ヴァルティエ様とは仲がいいからね。まさか、知らないとは言わないよね?」

「知ってますよ」


にこやかに笑ったつもりでも、少し引きつってしまった。

ローウェルの父と俺の父が昔から親しかったのは知っているが、ローウェルとは今まで関わりがなかった。

いや、正直言えば、避けていたところもある。


「ルシェルは、何の魔法が使えるの?」

「俺は……光魔法が使えるんだ」


別に隠すつもりはなかった。

どうせ魔法学科にいれば、そのうちバレることだ。

そう思って正直に言うと、エミールもローウェルも目を丸くした。


「すごい! 光魔法が使えるの?!」

「しーっ、声を落としてエミール」


エミールが思わず大声を出したせいで、周囲からの注目を浴びてしまった。


「ご、ごめん……」

「大丈夫」

「へぇ……光魔法、か……」


ローウェルも平静を装っているが、内心は驚いている様子だった。

自分の話ばかりになるのも気まずいので、俺は話題を振り返す。


「ローウェル様は、何の魔法を?」

「僕は土魔法が得意だよ」

「そうなんですね」


ニコニコと微笑んではいるが、どこか目が笑っていない。

ローウェルは、人懐っこいようでいて、実はとても謎めいたキャラだ。

“ローウェルルート”をプレイしたことがあるが、彼の内面には深い闇があり、それをエミールが受け止めてやっとゴールインできた。

けっこう好感度を上げるのが大変なキャラだったのを、俺は覚えている。

そんなことを考えているうちに、チャイムが鳴り響いた。

いよいよ、魔術講義の始まりだ。

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