第52話 現在、魔王選定の儀2
とまあ、そういう経緯で宝物庫を攻略したのだが。
「さあフィーロよ。魔力を開放してみせよ」
そこで手に入れた宝物こそが、この窮地を脱する鍵となるのである。
「……」
もちろんその宝物とは、歴史上八つしか確認されていない至宝ルナタイト……。
ではない!
そう、ルナタイトではないのである。
というのも、確かにルナタイトは滾々と魔力を生み出し続ける素晴らしい結晶体だが、しかしその魔力を直接に利用できないという欠点が存在しており。
ゆえ魔法陣などの魔力供給源にはなれど、個人の魔力タンクとしては利用できず。
そのために魔蔵の指輪のように、身に宿る魔力と見せかけて指輪の魔力を開放してみせることで、実力を偽るという方法を取ることができないのである。
そして当の魔蔵の指輪にしても、例え最高ランクの代物でも貯蔵できる魔力の上限が、上級下位クラスの魔力量に止まるので
魔蔵の指輪の失敗作たる底なしの指輪は、込める傍から魔力が消え失せていくので用を成さない……はずが、しかしこの底なしの指輪こそが真打だった!
そう! 銀のチェーンで首から吊るした、この指輪こそが活路となるのだっ!
それはひとえに、本来ならば込めた傍から魔力が消え失せるはずのこの指輪に、どういうわけか魔力を込めることができたがゆえにもたらされた幸運だ。
そうなのである。なぜか俺の魔力だけは、底なしの指輪に貯蔵できたのである。
俺も試しにと魔力を込めてみたところ判明したこの事実に、俺自身とても驚いたし、すぐさま魔力を取り出して指輪を空にしてからリーエにも試してもらい。
されどやはりリーエの魔力は何処かへ消え失せ、酷く戸惑ったことを今でもよく覚えており、また今現在も俺の魔力だけが貯蔵できる理由は判明していないが。
ともあれ魔力が貯蔵できるのは事実であり、そして誰にもこの事実を伝えず、今に至るまで密かに魔力を込め続けたこの指輪が、活路となる事実も変わらない。
未だに上限が見えない、この文字通り底なしの指輪には、それこそ大魔王様何十人分とも言える超大に過ぎたる魔力が、長年の成果として貯蔵されており。
そこから少し開放した魔力を、この身から開放した魔力だと偽装することによって、傍目から見れば魔王級の魔族だと見せかけることができるからだ!
ちなみに、有限とはいえこれほどの魔力があれば、あるいは並みの上級魔族程度に攻撃魔法の適性があるだけで、天下無双となれたりしたのであるが……。
残念ながら俺はある一つの魔法系統にしか適性がなかったので、栓も止む無しだ。
「どうした? 疾く見せてみよ」
なんにせよ、これ以上大魔王様を待たせるわけにはいかないので、俺は前に出る。
「それでは。これより魔力を開放させていただきますが……」
ただ、もちろん俺は魔王になどなりたくないので、これより開放する魔力は大魔王様が落胆しないレベルで、かつレジエス兄上を超えないことが肝要であり。
「先に、未だ私は完全に魔力適正欠陥を克服できてはおらず。長時間に渡って魔力を使用した場合、いずれは制御がままならなくなるとお伝えしておきます」
ついでに言えば、例え魔王にはならずに済んでも、それに類する魔力があるからと戦場に駆り出されるのもまた困るので、制限があるのだと嘘をささやく。
「ゆえにできるのであれば、完全に克服してから戦場へと臨みたく。そのため魔王の座はレジエス兄上にこそ相応しいと、私からはそう申し上げておきます」
なので魔王の座と戦場から、どうか遠ざけてくださいと、お願いしておく。
「貴様! レジエス兄上は中継ぎだとでも言うつもりか! 愚弄するな!」
が、せっかく譲ると言っているのに、それも癪らしくエルーグが口を挟み。
「ともかく見せてみよ」
当の大魔王様も表情一つ変えず、伝わったかどうか今一わからぬままに催促した。
「では……」
というわけで、遂にこの身の魔力と偽って指輪の魔力を開放する瞬間と相成り、俺はまず服を破くことがないように注意しながら背中に四対八枚の翼を生やす。
所謂ハッタリだが、一枚一枚が身の丈に迫るほどの大きさの漆黒の翼を勢いよく生やしてばさりと広げ、その身の周囲にひらひらと落ち葉のように羽を舞わせ。
そうして自分を大きく、そして神秘的に見せながら指輪の魔力を少し開放した!
「「「っ!」」
途端に大きく見開かれた、大魔王様を始めとして俺に注目していた面々の目。
「ば、馬鹿な……」
あっ、やばい……。
まず最初にエルーグが驚きをその口からこぼす中、俺は失敗したことを悟った。
というのも、実は自分の体から引き出す場合と比べて、指輪から魔力を引き出す場合は、その量が多くなるほどに量の調整が難しかったりしたからである。
「これはともすれば余に匹敵……」
つまり、この大魔王様の言葉からわかる通り、大魔王様に匹敵する魔力を……。
「いや凌駕してすら……」
いやそれすらも超えて、大魔王様を凌駕するほどの魔力を開放してしまったのだ!
「あ、ありえない……。これではレジエスではとても……」
敵わないとでも言おうとしたのだろうか? 呆然自失といった様子のラーステア。
「ふはははははっ。よもやこれほどとはな。これはもう決まりではないか?」
呆然自失になりたいのはこっちなのだが、
「重ねて申し上げますが、まだ魔力適正欠陥の克服は完全ではなく……」
これは不味いと、とにもかくにも魔力を指輪の中へと戻し、言葉を重ねていく俺。
「また、北の魔王領の正統後継者は、昔よりレジエス兄上と決まっており、それを差し置いて私が魔王となれば、不必要な軋轢が生じてしまうでしょう」
だからやはり魔王に相応しいのはレジエス兄上なのだと、猛プッシュしていく。
「今はなによりも一致団結し、人族を打ち払うことこそが肝要となれば、ここはやはりレジエス兄上に魔王の座を継承してもらうことが望ましいかと存じます!」
「そ、そうです! 要らぬ軋轢を生まぬためにも、それが一番なのですっ!」
そしてここで、なんとか復活を果たしたラーステアも、俺の味方をしてくれる。
「そ、そうだ! いやそうです! 本人が言っている通り、魔力適正欠陥を克服できていないのなら、魔王を務めるには不安が残ります! どうかご再考を!」
その後に続いたのは、もちろんエルーグであったが、しかし言葉尻がよろしくない。その言い方だと、まるで俺がほぼ魔王に内定しているみたいではないか!
「であるか」
驚愕から戻ってきたらしい大魔王様は相変わらず表情が読めないし、反論してもおかしくないアーシェたちは勝ちを確信したように笑顔だしで、かなり不味い。
「そうなのでございます! 魔王に相応しいのはレジエスなのです!」
「そうでございます! レジエス兄上以外を魔王には、認められません!」
理を述べずに反対しているラーステアやエルーグを見れば、旗色は一目瞭然だ!
「そうだ。認められるわけがない! 俺はおまえを魔王などと……。俺は絶対に認めん……! 俺はおまえたち兄妹を断じて認めん! 認めてなるものかっ!」
そしてここで、エルーグが怒りを爆発させて、憤怒の形相でアーシェを睨み。
「あらおかしい。一番の出来損ないが何か吼えているわ」
対するアーシェはと言えば、ここぞとばかりに意地の悪い返しをした。
「貴様ぁあー!」
これには怒髪天を突くといった有様のエルーグ。
というのも、拡張が三十八日で止まったエルーグの才は、魔王の息子として下振れと言わざるを得ず、だからこそ昔から強烈なコンプレックスを抱えていたからだ。
それも特にアーシェに強い劣等感を抱いており、対するアーシェもエルーグが出来損ないたる俺を引き合いに出して馬鹿にするので、昔から対抗心を燃やしていた。
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