第5章 心の荷物持ち
「で、ビリーくんは、いつからその箱に住み着いてるわけ?」
江莉が、プリクラのブースを顎でしゃくって訊ねた。城戸は、大げさに髪をかきあげてみせる。
「さあな。時間なんて数えても意味ないだろ、ここでは。腹も減らなきゃ、眠くもならない。ただ、夜っぽくなるとちょっとだけ空気が変わる気がする。だから、そしたらここに戻って、丸くなる。それの繰り返し」
「動物みたい」
「野性を思い出すってやつ? いいじゃん、ワイルドで」
「ただの引きこもりじゃん」
杏里の呟きに、城戸は聞こえないふりをした。彼は璃子に向き直り、芝居がかった仕草で手を差し出す。
「まあ、そんなことより、こうして可愛い子ちゃんたちと出会えた奇跡に乾杯しない? 改めて、俺はキド。よろしくな、リコちゃん」
「璃子でいいよ! てか、よく名前わかったね」
「そりゃあ、輝いてる子の名前は、自然と心に響いてくるもんさ」
「何それ、詩人?」
江莉が茶々を入れると、城戸は「まあね」と得意げに胸を張った。この男の辞書に、照れるという文字はないらしい。杏里は、そのやり取りを三歩離れた場所から眺めていた。まるで、自分とは違う言語で会話している劇を見ているような気分だった。
「ねえ、せっかく四人になったんだし、なんか対戦系のゲームしない?」
璃子が、また新しい遊びを思いついたようだ。
「いいね、それ! じゃあ、あそこのエアホッケーやろうぜ。俺、昔は『環七のスマッシャー』って呼ばれてたからな」
「環七のどこらへんで?」
「細かいことはいいんだよ。とにかく、俺とリコちゃんが組んで、そっちのクールな二人と勝負だ。どう?」
城戸が杏里と江莉を挑発するように見る。江莉は面白そうに口の端を上げた。
「いいよ、やってあげる。ただし、負けたら一週間、私たちの荷物持ちね」
「荷物なんてないだろ、この世界に」
「雰囲気、雰囲気。心の荷物持ちだよ」
「ウケる。OK、乗った!」
こうして、意味のないゲームの、意味のないルールが決まった。杏里はため息をつきたかったが、江莉に腕を引かれ、黙ってエアホッケーの台の前に立たされた。電源の落ちた台は、ただの大きなテーブルだ。
「じゃあ、いくぜ!」
城戸が、見えないパックを台の中央に置く真似をした。
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