第19話 破邪の剣
カナヅチと何度か打ち合ってわかる。
これは魂に作用する刀だ。
魂が切られ、その後に体が後追いで傷口を作る。
無機物の金棒ならば問題ない。
俗にいうなら破邪の剣か。鬼がこの刀を使えば使うたびに魂を削られる。
人間なら問題はない。人間の魂は強靭だ。鬼の魂のように揺らぎがない。
鬼は魂が弱いからこその異形と異能だ。その形を変えられる。
それを解消するには人間を食って力をつけるほかないという事だ。
それも限界がある。魂を極限までに強めれば人間になるしかない。
異形と異能を捨て、肉の身のみで生きる存在。
そこに再度到達できる存在など居るものか。
俺は人を食らい続け、いつか討たれるただの鬼だ。
「駄目だな。アンタをやれる道筋が見えない。今の装備じゃ殺しきれん」
それはこちらも同じことだ。体術だけで詰められる。
下手に影潜りなどを使えば読まれて首と胴体が泣き別れだ。
異能を使おうにもこうも近くでは自爆覚悟だ。
今見せている手札は影潜り、土塔、風渦。
殺せない以上他の手札は使えない。
カナヅチもそうだ。勝ち負けに関係なく俺を殺せない。
手札も伏せたまま。
膠着状態になるのは当然か。
「お代をもらって帰ってもいいか大餓?」
まあ、そうなるな。
「構わんが良いのか?」
「これだけわかればな。あとの采配は俺の範疇じゃない」
「それでは釣りが返せんな」
「何をつける気だ」
「その牧場主を始末する算段はあるのか?」
流石のカナヅチも口が重くなる。
「・・・鬼のお前がそれに協力すると?」
「その通りだ。飼われた鬼など見るに耐えん。皆殺しだ。そのついでだ」
「・・・まだその時じゃねぇ。だがいいのか。鬼が人間と手を組んで」
「俺が人を食い続ける限りお前は必ず敵になる。それまでの間なら付き合おう」
「裏がねぇってのも厄介だな。牧場主を始末した後の俺は晩餐の材料か」
「その通りだ。すでにお前が欲しいという鬼が居る」
「アンタじゃないのか大餓」
「違うな。俺には人間の味の違いなど分からん。美味への追及が始まる前に決めてくれ」
「このまま牧場主にアンタをぶつけるのが正解に思えて来たぜ」
「遅かれ早かれ辿り着く。早い方がいいぞ」
「・・・今はお代だけだ。ハッ。ほとんど手札を伏せてた奴が良く言うぜ」
「人間だけが鬼を討つ。人間だけを鬼が食う。それこそが人と鬼の矜持だ。カナヅチ。お前と俺は必ず殺し合う」
「嫌な予言だが当たりそうだ。精々首を洗っていろよ大餓」
「ああ。楽しみだ。お前が美味でどんな味になるのだろうな」
カナヅチは去る。
奴の最後はここにはない。
鬼と人間の牧場か。どんな存在がそれを可能に出来るのか。
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