第18話 カナヅチ
切られた感覚がある。
ボサボサの持つ刀が俺の左腕を掠めたがあのギィィィン!は起こらない。
不可解があるとすれば切られてから傷口が生えてきた。
刀傷ではない。
「気付いたか赤鬼。この刀はお前を殺せる。泣いて詫びるなら聞いてやってもいいぜ。お前を牧場の番犬待遇で迎えてやる」
まだ俺を殺す気は無い様だな。この切り札を見せるのが奴の誠意か。
見た目よりも交渉に長けているようだ。
「お前の飼い主は余程気前がいい様だな」
俺は金棒を下ろす。
「へぇ。わかるのかい? 興味があるなら今からでもいいんだぜ。ガキの使いにはなりたくないんでね」
「お前が番犬になるのならそいつは俺よりも強いのか」
「当然だ。格が違い過ぎる。この刃が届く頃には俺の首はないだろうさ」
「それだけではないのだろう?」
「・・・そういう事かよ。アンタを交渉に付かせようってのが無理だって事か」
不敵に笑う俺を見て気付いたようだ。察しのいい奴だ。
「ただの人間牧場なら興味はあった。鬼牧場でも俺の興味はそそられた。だがその刀を手にした
「交渉を間違えたぜ。アンタはもっと保守的に見えたんだが?」
だろうな。そう見せていた。
「俺が実力を出していればお前は交渉せずに逃げ出していただろう。それが答えだ」
ボサボサが頭を抱える。
「あーッ! クソが! だったらこっちも手札を切るぜ。牧場主は鬼じゃねぇ。人間は食ってねぇよ」
「・・・なるほど。俺は種馬か」
「察しが良すぎだぜ。鬼を使った人間の改造だ。アンタの待遇は良いはずだぜ。人間も食い放題だ」
「それで鬼を飼えるほどの牧場主とやらは何なのだ?」
「神か妖怪か仙人か。俺も知らねぇ。人を食ってないのだけは確かだぜ。さて、ここまで譲歩させてただで帰るとは言わねぇよな?」
「勿論だ。お代のお前の命は取らないでおく。ガキの使いになるかはお前の実力次第だ」
「それはこっちのセリフだ。俺が勝ったら大人しく付いてきてもらうぜ」
決まりだな。
「大餓だ。大いなる餓えと書く」
「カナヅチだ。通り名だが構わねぇな?」
「ああ」
さて、何処まで手札を見せるべきか。油断すれば俺の命はない。
奴の手札であるあの刀は交渉のためだ。切り札という事は無いだろう。
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