第5話 実食

「助けてくれぇ!」


 俺はやかましい人間を水牢に押し込めていく。

 これで回転させれば処理済み人間ごはんを後で探さずに済む。

 しかし理想的な村だ。

 こじんまりとして一食分にはもってこいだ。


「まて! ここは鬼と人が共存する村だ!」


 馬鹿な。

 俺は金棒を投げつけると雷雲と炎の同時攻めを行う。

 ボーンと弾け飛んだ鬼の体と飛んできた俺の金棒をその手に取る。

 その角を口に含むとまずまずだ。

 ここが人間牧場だとしてもこれでは割に合わない。


「食っていいぞ」


 俺は付いてきてた非常食に告げる。

 蔓延の笑みだ。

 そうだそうだ。もっと喰え。

 もっと喰って肥え太れ。


 俺が粗方片付け終わると非常食が満足げに腹をさすっていた。

 良いぞ良いぞ。それで良い。

 さかしい脳など必要ない。

 非常食は黙ってついてくるだけでいい。


 俺は水牢で纏めて放りだした人間を一匹づつ回転水牢で剥いていく。

 やはり人間はご飯だ。必要不可欠。

 ここでおかずがあれば尚いい所だ。


 俺が視線を向けると非常食の角が大きく育っている。

 体の小ささから角にまず栄養が行き渡るのか。

 これはもう食べごろか。

 俺は非常食の角を掴むとへし折る。


「ギャアアアア!!!」


 のたうち回る非常食を尻目に俺はその角を味わう。

 美味い。

 濃厚凝縮したものではないがおかずとしては合格点だ。

 これからも見込みがありそうな鬼は連れて回すか。


 俺は鬼の角おかず人間ごはんで舌鼓を打つ。

 これは最高だ。人間ごはんが進む。


「ああああ!!!」


 非常食が叫びながら突っ込んでくる。

 まだ生きていたとはな。

 だが俺ではなく人間にかぶりつく。

 いい判断だが服毎食うな。

 俺は非常食を人間から引き剝がすと剥いた人間を差し出す。


「汚れたものを喰うな」


 訝しげだった非常食が剥いた人間にかぶりつく。

 それでいい。

 鬼に堕ちたとて拾い食いなどご法度だ。


 俺が黙って食事をしていると非常食がこちらにやってくる。

 腹が膨れて満足したのだろう。

 その角が大きくなっている。

 するとそれが外れた。


「これ。あげる」


 ほう。


「見返りはなんだ?」


「あーしを連れて行って。ごはんを分けて欲しい」


 妥当だ。わかっているではないか。

 俺はその角を受け取る。

 美味だ。人間ごはんによく合う。


「受け取った。美味だった。その見返りに応えよう」


「うん。じゃああーしは美味。あんたは何て呼べばいい?」


 俺の名か。そんなものは失われてしまったな。そしてそもそも必要ない。


「ない。好きに呼べ」


「じゃあ。大きく餓えてるから。大餓おおがで。どう?」


 ほう。悪くない。


「気に入った。大餓か。悪くない。美味。期待しているぞ」


「うん! 美味に期待して!」


 蔓延の笑みだ。

 どこかずれているがそれこそが鬼である証だな。

 

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