ワタルの物語
よこちゃん
第1話 精神障害者・ワタル
ワタルは、心身に深い傷を負いながらも、地域の福祉事業所に通っていた。彼は精神障害を抱えていた。
それでも、彼には夢があった。病を克服し、社会に復帰すること——それが彼の希望だった。
しかし、現実は厳しい。幻聴は一時的に止まったものの、再発への不安は常につきまとい、彼の状態は不安定だった。「治った」と実感するには、余りにも危うい日々だった。
世間の精神障害へのまなざしは、冷たく、時に残酷だ。「気持ち悪い」「馬鹿じゃない」——そんな言葉が、まるで見世物を見るかの様に、彼らを笑いものにして後ろ指を差す…。理解しようとする姿勢は乏しく、「自分たちとは無関係」と言わんばかりの態度が、見えない壁をつくる。
だが、国の統計によれば、精神障害者は日本に約528万人。人口が約1億2千万人とすれば、およそ20人に1人が精神障害を抱えている計算になる。
この数字が示す通り、精神障害は決して「対岸の火事」ではない。誰もが向き合うべき現実なのだ。
ワタルは、作業所のことはよく理解している。けれど、世の中の事はよく分からない。世間の人々が私達をどう見ているのか——その視線は、彼の立ち位置からは見えない。
そして、私たちの心は弱い。だから、悪意をもって騙そうとすれば、簡単にだまされてしまう。その脆さゆえに、大きなお金を扱うことができない。大きなお金を扱えないから、人生でリスクを取って、大きな賭けに出ることもできない。そうして、人生は、どんどん、面白みに欠けてくる——。
ワタルに残されたのは、ネットにつながるパソコンと、配布用の印字プリンター、そして、それらにリンクしたスマホだけだった。
彼の唯一の武器は、文章表現能力だった。そして、彼の苦手なことは、自分の思いを伝えるコミュニケーション能力だった。
——今の世の中、伝える力が、世界を動かす。
今、お金はない。それでもワタルは、必死に自分の意見を磨いている。なぜなら、得体の知れない“何か”が、彼の周りをうろつき始めているからだ。
一見、無駄に見えるような事でも、ワタルは必死になって取り組んでいた。バット(悪夢の様)な人生に、足掻きながら、それでも、上を目指して——。
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