第一章 黎明が呼んでいる

第1話


 およそ千年前、世界が闇に覆われたことがあった。


 その日は日食。だからそうなった。大袈裟だろうと思うだろうが、そうではない。本当に太陽が姿を消したのだ。


 人々はこの世が終わりを迎えたのだと絶望し、救いの祈りを天へと捧げた。すると姿を消したはずの太陽が再び現れ、陽の光が世界を照らし始めた。祈りが天に届いたのだ——。


 ガヤガヤしている店内なのに話が耳へと流れてくる。まぁ、隣席なのだから仕方がない。その内容を耳にしたのは何度目だったかと、数える気もないくせに頭の中でぼんやりと考えながら食事に手をつけた。



「なぁ、姉ちゃんは知ってるか?」



 自慢げに熱弁していた声がこちらにも飛んできたような気がして箸を止めた。私じゃありませんようにと目を瞑る。


 おい、聞いてるか? あんただよ! と、追い討ちの声が飛んできて、やっぱり私かと肩を落とした。



「知ってるとは、何を?」



 声のした方へ顔だけ向けると、話好きそうな顔をした男がこちらを見ていた。その男はこの席へ案内してくれた店の店員だった。仕事しろ。



「世界が闇に覆われたことがあったって話だよ!」

「あぁ、まぁ。祈りが届いたってやつですよね?」

「なんだ、よく知ってるな! それじゃぁこれはどうだ? 実はその日、天界で太陽神の代替わりが行われていたって話!」

「……代替わり?」



 それは初めて聞く。適当に会話を終わらせようと思っていたのをやめて身体ごと向き直った。

 

 その反応に気をよくしたのか店員は私の側へと近寄り、鼻を高くして話し始める。



「太陽神の妹から姉に代替わりをしたらしい。そのほんの少しの引き継ぎの間、この世界から太陽が姿を消したってわけだ!」

「へぇ、それで? 姉が太陽神に即位したのであれば、その妹とやらはどうなったんです?」

「いや、まぁ、これは内緒の話なんだがな……?」



 ニヤニヤと口の端を上げている。“内緒の話”をしたくてたまらないのだろう。それなら話さなくていいと口から出るより店員が屈むのが先だった。


 店員は耳元に口を寄せると小声で話し始める。

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