子宮愛は真実の愛か

@suzuki0724

子宮愛は真実の愛か

 代理出産で産んだ子供をこんなに愛しく感じるなんて思わなかった。

 顔も知らない男女の精子と卵子で出来た子供、一重瞼で古風な顔立ちの私とは似ても似つかない、綺麗な二重瞼と黄金色の薄い髪。けれど確かについさっきまで私のお腹を蹴っていた子だ。


――初めて他人と付き合って別れることを経験した中学二年生のころから、十年以上もの間恋愛に興味が持てなかった。しかし若い自分の身体には価値があると思い、ネットで見つけたこのアルバイトに申し込んだのだ。

 給料がよかったというのもあるが、理由の殆どが単純な善意だ。この無意味な健康体が困っている人の役に立てるなら、と快く子供を送り出すはずだった。それなのに、例えようがないほどの激痛と共に産まれてきた子供は大きな泣き声をあげて安らぎを求めた。その安らぎは、私の胸だった。

 私が抱くと大人しくなる子供を見たら、途端に涙が溢れ出した。

 この子は私の血肉で育った、我が子なのだと。

 だが、次の瞬間には助産師の女性が私から我が子を引き離した。

「やめて! 連れていかないで!」

 再び泣き始めた我が子を抱く助産師は、言葉が通じないせいか振り向かない。

「嫌! その子は私の子よ! 返して! 返せ――!」

 まだ下半身に痛みが伴う身体を無理に動かして取り返そうとする。けれど看護師たちに取り押さえられ、すぐに身動きが取れなくなる。

 返してくれお願いだと必死に叫ぶなか、助産師は分娩室を出て行ってしまった。

 もうじき、これから父母となる男女にあの子は抱かれるのだ。そして初めて目を開けたあの子を優しく呼ぶ声で、あの子は目の前の女性を母と認識する。

 お腹を痛めて産んだ私ではなく、見た目がそっくりな血の繋がった女性を。いつしか自我を持ち言葉を覚えたあの子は、その女性に告げるのだ。

『ママ』と――。


 煮えたぎるほどの熱を帯びた血液が、私の中を駆け巡る。


「奪い返してやる……私の子を……いつか必ず奪い返してやる――!!」

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