涙、癒えぬままに

病院の駐車場。夜風に揺れる木々の音が、ふたりの間の沈黙をやさしく埋めていた。


「……すみません。母さん、完全に誤解してましたね」

優也が、車の横で少しだけ照れたように笑った。


「いえ、私は別に構いませんよ」

佳子は小さく首を振ると、少し目線を逸らした。

「むしろ……嬉しかったというか……」


「えっ、なんですか?」


「いえいえ、なんでもないですっ」

慌てたように手を振る佳子。頬が赤く染まる。


「さ、帰りましょうか。送っていきます」


「はい、ありがとうございます」


――その夜、優也はまだ、運命の知らせを知らなかった。



---


翌日。仕事中、優也のスマホが震えた。


「もしもし……はい、はい……えっ……」


目の前が一瞬で歪んだ。

母の容態が急変し、緊急手術が行われたが

母は、静かに息を引き取ったという。




【三日後】


母の葬儀を終え、優也は職場に戻ってきた。


「金田くん……大変だったね」

店長が静かに声をかける。


「……ご心配おかけしました。今日からまたお願いします」


「うん。でも、あまり無理しないでね。何かあったら、すぐ言って」


「はい……ありがとうございます」


けれど、胸の奥の痛みは、消えない。




休憩室にひとり、優也は頭を抱えていた。


(……駄目だ。仕事に集中できない……)


深く息を吐き、声にならない独り言が漏れる。


(まだ信じられないよ、母さん……ごめん……ちゃんと恩返しできなくて……)


ぽた、と涙が机に落ちた。

それをぬぐう間もなく、背後から優しい声がかけられる。


「金田くん」


「……っ、店長……すみません、僕……」


「いいんだよ。今日はもう帰りな」


「え……?」


「連勤ばかりしてくれてたからね。1週間、休んでいいよ。特別有給にしてあげるから。今は――心と体を、しっかり休ませなさい」


優也は、何か言いかけたが、言葉が出なかった。


「……でも」


「いいから。何も言わなくていいよ」


その一言に、優也の涙は止まらなかった。

店長の言葉が、今の彼には何よりも救いだった。


「……はい……ありがとうございます……」


泣きながら頭を下げるその姿に、店長はただ、そっと背中をさすった。



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