お見舞い

病室のカーテンをそっと開けると、優也はベッドに横たわる母の顔を見て、胸を撫で下ろした。


「母さん……心配したよ。具合はどう?」

ベッドの上の博子は、少し顔色は悪かったが、ゆっくりと微笑んだ。


「ごめんね、優也。びっくりさせちゃって……でも大丈夫よ。ちょっと入院することになっちゃったけど、すぐ元気になるからね」


優也が安心したように小さく頷くと、博子はふと、そばに立つ女性に目を留めた。


「あら?そちらの方は?」


「あ、母さん。こちらは職場の同僚の広瀬さん。さっき送ってくれたんだ」


「初めまして。広瀬佳子と申します。突然お邪魔してしまって……」


「まぁまぁ、ご丁寧に……わざわざありがとうね。優也がいつもお世話になってるみたいで」


佳子が軽く頭を下げると、博子は嬉しそうに目を細めた。


「なんて素敵な方なの。もう優也、もっと早く紹介しなさいよ」


「ちょ、ちょっと母さん……なに言ってんだよ」


頬を赤らめる息子をよそに、博子はさらに続ける。


「広瀬さん、こんな不器用な子だけど、どうかこれからもよろしくお願いしますね」


「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


「ああ……もう、広瀬さんまで……」


照れ笑いを浮かべる優也に、病室は一瞬だけ明るい空気に包まれた。


その時、ドアの向こうから白衣を着た医師が姿を現す。


「失礼します。金田優也さんですね。お母様のことで少しお話がありますので、医務室までご同行いただけますか?」


「……はい。広瀬さん、すみません。少し待っててもらってもいいですか?」


「もちろん、大丈夫です」



---


数分後、無言のまま医務室を出てきた優也の顔は、どこか曇っていた。目を合わせないまま、佳子の前に戻る。


「金田さん……どうでしたか?」


一拍の間の後、優也は口を開いた。


「ああ、過労によるものだそうで、入院は一週間くらいで済むらしいし、退院後もあまり無理はさせないようにと言われました。」


佳子はふっと安心したように微笑んだ。


「そうだったんですね。大事に至らなくて、よかったです」


「……はい。ありがとうございます」


――けれどそのとき、優也の心には別の言葉が重くのしかかっていた。

「本当は……もっと深刻だった」

けれど、口にはできなかった。

佳子の優しさに触れたばかりの今、重すぎる現実を持ち込むことができなかったのだ。




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