転生したら公爵家の長男だったので成り上がりどもを潰していこうと思う

そう

プロローグ

――死んだ。そう思った。


信号を渡る瞬間、目の前に突っ込んできたトラック。

衝撃と、鈍い音と、宙に舞ったコンビニの袋。すべてがスローモーションのように流れて、やがて、静寂だけが残った。


「……マジかよ、俺、死んだのか……」


あっけなかった。

コンビニの新作おにぎりの味も、楽しみにしてた漫画の続きも、何一つ手に入らないまま終わった。


なのに――


「おぎゃあああああああああ!!!」


「おおっ……元気な産声だ! 公爵様、男児でございますぞ!」

「レオン様! 無事にお生まれになられました!」


……え?


目も開かない。体は思うように動かない。なのに、耳だけはやたら良くて、さっきから何かすごく物々しい声が飛び交っている。


なんだこれは。俺は……赤ん坊?



数日後。ようやく目が見えるようになって、状況が少しずつ分かってきた。


俺はどうやら、“ヴァルデリウス公爵家”という、この国でもトップクラスの名門貴族の家に生まれたらしい。名はレオン。つまり俺は、“公爵家の長男”になったということだ。


屋敷はバカみたいに広く、使用人は多すぎて名前すら覚えきれない。母親は美しく、父親は威厳に満ちている。育児係は常に5人いて、乳母は毎日交代。ベッドはふかふか、ミルクも高級品らしい。


「……マジか、人生、リセットどころかチートモードじゃねえか」


もちろんまだ言葉に出せるわけじゃない。ただ、赤ん坊のふりをしながら、頭の中ではずっと考えていた。


今のところ、この世界は平和に見える。屋敷の外に出たこともないし、貴族社会のことも何も知らない。

“成り上がりども”なんて存在は、まだこの小さな世界には影も見えない。


ただ、何かが胸の奥でざわめいていた。


「この世界、どこかおかしい気がする……」


けれど、俺がそれに気づくのは――もう少し先の話だ。

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