昔、いい感じになった初恋の女の子との話

しろがね

一年に一度の

 中学のころ、塾で同じクラスの女の子のことが好きだった。ちなみに僕にとって、初恋だ。


 その女の子は、僕とは、違う中学に通っていて、接点は、塾が同じ――それだけ。


 声をかけて、仲良くなろうにも、塾は、受験に向けて重苦しい空気で満ちていて、色恋が許される雰囲気じゃなかった。そのため、結局、僕は、彼女とは、一切話をすることなく、中学卒業と同時に塾をやめた。


 もう彼女には会えないのだろう。


 そう思っていたけれども、僕は、彼女とすぐに再会することになった。


 ――同じクラスだね、今年からもよろしく。


 入学式で、クラス分けの掲示板をぼんやり、と眺めていた僕に彼女が声をかけてきた。今まで、ひとことも言葉を交わしたことがなかったけれども、僕の存在を認識してくれていた。ただ、それだけのことで舞い上がりそうだった。


 そして。


 入学してすぐの自己紹介で、彼女と僕の誕生日が同じ日付だ、ということが判明して、僕は、さらに運命だ、と思い上がる。彼女も「運命みたいだね」とか言って、微笑んできたからなおさら。


 本当に莫迦だ。


 それから、僕と彼女は、距離を縮めていく。でも、お互いを傷つけないように慎重に。そんなじれったい時間を重ねている内に、周囲には、お前らいつ付き合い始めるんだ、とからかわれるような関係になれていた。


 僕も彼女も、このとき、間違いなく相思相愛だった、と思う。


 けれども――。


 そんな関係は、永遠には続かなかった。


 高校三年に上がる直前の三月に彼女が親の仕事の都合で、海外に引っ越すことになったのだ。


 泣きながら僕に、ごめんね、と謝る彼女に僕は何も言えなかった。


 思い返せば、このとき、「好き」とお互いに言えていたら何か変わっていたかもしれない。


 彼女が僕の前からいなくなってから、僕は、人生の目的のようなものを喪失した気がしてならなくなる。高校生特有の青色の感性で、勝手に彼女との未来を描いていた僕は、その感性を使い果たしてしまっていたのだ。


 大学に入って、しばらく経ったころ。ほとんど見なくなっていた高校時代によく使っていたSNSアカウントを開くと、彼女のSNSに動きがあった。チェックしたところ彼女に彼氏ができたらしい。


 ああ。

 

 運命なんてあったとしても、消費期限があるのだな。

 

 心のどこかで、いつか再会できることを期待していた僕は、そう思った。

 

 そうして、大学二年生になって、誕生日を迎えた。


 僕と彼女の二十回目の誕生日だった。


 ――誕生日おめでとう。


 そうひとことだけ、彼女からメッセージが届いた。


 僕も、彼女に、誕生日おめでとう――と、そうひとことだけ送る。


 それ以上は、何も返ってこなかったし、僕も何も送らなかった。


 それから、毎年、彼女から一年に一度、誕生日のときだけ、メッセージが届く。


 彼女が結婚しても、それは、続いた。


 後、一時間で僕と彼女の三十回目の誕生日がやってくる。


 僕は、まだ、消費期限切れの運命に囚われている。


 きっと、誕生日が巡ってくる限り、この運命から逃れられないのだろう。


 本当に莫迦だ。

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昔、いい感じになった初恋の女の子との話 しろがね @drowsysleepy

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