第48話 いつも胸に

 芸術家の風上にも置けない奴を倒し、外の空気を吸って体調の良くなった和夜はケオケオに乗り、空を飛んで帰ろうとしていた。

「おや?方向が違うよ。どこに行くんだい?」

「何かケオケオがこっちに」

ケオケオが別の方向へ飛んで行くため、イカ天も付いて行った。


 強、リゼ、キンバは任務中だった。珍しく3人で戦っている。

「何だよ!コイツ等!」

リゼはチェーンを振り回していた。キンバは釘入り金属バットを構える。

「おい!動物にはあまり危害を加えるなよ!」

「んなこと言ったって、俺達がやられるぞ!」

「そうだね。下手をすれば食べられるよ」

強は一瞬、難しい表情を見せながら悩む。

「それでも、この動物達はアイツに操られて動いている。殺しでもしたら申し訳ない。俺は動物達にはなるべく怪我をさせずにアイツを倒したい」

「くそっ・・・分かったよ」

「でも、どうするの?」

敵は1人だ。1人なのだが罪のない動物を催眠術のようなもので操り狂暴化させ戦わせている。動物に危害を加えたくないという3人の気持ちを利用し戦っているのだ。

「一旦、上に行って考えるぞ」

3人は岩壁を上った。

「アイツに近づけさえすれば!・・・」

「本当、卑怯な手を使うよ」

「おーい」

聞き覚えのある声が聞こえた。空を見るとケオケオに乗っている和夜が居る。和夜に付いて回るイカ天も居た。


 3人の所に和夜を乗せたケオケオは舞い降りる。イカ天も着地する。

「和夜先輩!」

「和夜姉さん!どうしてここに」

「ケオケオが連れて来たんだよ」

和夜とイカ天は下を見る。狂暴化した動物達は岩壁の上に居る人間達を見て吠えている。

「わー・・・吠えてて怖いな」

「俺達は動物を操っているアイツに近づきたいのだが、動物を傷つけずに近づくことが出来ず、一旦ここに・・・」

「つよっしーの言う通り、あの場所に居られるとな」

どうやって動物を操る敵を動物を傷つけずに倒すかを考えていた。

「一瞬で移動してアイツの所へ近づいても直ぐに動物が来るので・・・」

和夜は本1冊が入る位の裏ポケットのある胸部分に手を当て深呼吸をした。

「私が行って来るわ。私なら動物に傷つけずに近づけるから。待っててね」

「えっ!?ちょ!」

3人が止める間もなく和夜は岩壁から勢いよく飛び降り、空中で変身した。正直、吠える動物は怖いが、自分は傷が出来ても直ぐ再生するので動物に噛まれても何とかなるだろう、自分が行くしかないと思った。

「あれ?」

自分はなぜか空中に止まっていた。

「全く、無茶するなぁ~」

イカ天が触手を伸ばし和夜の腰を掴んでいる。それを見た和夜以外の全員はホッとした。ホッとはした。

「イカ天さん、和夜姉さんが何か怒ってませんか?」

「何か、ぷんすかしてるな」

「いや、ぷりぷり?ぷんぷん?」

「人が勇気を振り絞って飛び込んだのに何してくれてんだー!」

イカ天は怒っている和夜を自分の所まで運び、触手を離した。

「私が居るのをお忘れかな?今回は私の出番だよ」

イカ天がそう言うと触手が勢いよく敵の所まで伸びた。動物がイカ天の触手を噛む前に敵を掴み自分達の居る場所まで持って来る。それを見た全員がその発想はなかったと感動をした。少し焦って頭が回っていなかったのだ。和夜は恥ずかしそうにしながら

「そっか。イカ天に触手を伸ばして貰えば良かったんだ」

と言った。

「ふふふ。今回は役に立てて良かったよ」

イカ天が敵を触手で動けなくしている内に強、リゼ、キンバはそれぞれ攻撃をする。

「ダンベルアタック!」

「ロングチェーン!ぶん回し!」

「釘飛ばし金属バット!」

「ちゃんと必殺技に名前あったんだな」

和夜は攻撃する3人を見守りながら呟く。


 罪のない動物を操り、利用する悪い奴を倒したことで動物達は元に戻った。催眠が解けたのだろう。元々は攻撃的ではない、穏やかな動物ばかりだった。

「怪我がなさそうで良かった」

「お前ら、もう変な奴に捕まるなよ」

「自然に帰って行くね」

戦いが終わった後、和夜はイカ天に少し恥ずかしそうに、申し訳なさそうに言う。

「さっき怒ってごめん。助かったよ。ありがとう」

「良いんだよ」

イカ天は笑顔だった。


 強、リゼ、キンバの任務に顔を出した和夜がケオケオに乗り帰宅する。イカ天もそれに続く。

「じゃあ、先に帰ってますね」

地上に居る3人は和夜に手を振り返す。ケオケオに乗って飛んでいく和夜の後ろ姿を3人は見ている。色々と思うところがあった。


 3人は本当は強の車で来ていたのだが、目的地に向かう途中でタイヤがパンクしてしまう。そのため急遽、交通機関を利用していた。だから、帰りも交通機関で移動している。今は電車のボックス席に3人で座って居る。強は腕を組み目を閉じていた。寝ているのか、瞑想でもしているのかは分からない。強のことだから真面目なことを考えて、瞑想でもしているのだろう。キンバは完全に寝ていた。明らかに寝ていた。窓際に座って居るリゼは頬杖を付きながら外の景色を見ていた。2人が目を瞑っていることを確認し、ポケットから絆創膏を出す。それは黒葉から昔、ある女性からと言われ渡された物だった。もしかしたら、いつか誰なのか分かるかもしれない、気になって使わずに大事に取っておいてしまっていた。分かるまで取っておいて良かったと思った。絆創膏を渡してくれた相手はもう分かったのだ。


 黒葉が資料を読んでいる時に手が切れて痛そうにしていたことがあった。そこへ、和夜が透かさず絆創膏を渡す。その絆創膏と全く同じだったのだ。めったにみない柄、独特な切り込みがされた絆創膏。

「ありがとう。医務室に行く手間が省けて助かるわ。あら、この切り込みは?」

「指に巻き付きやすいように切り込みしてある絆創膏しか持ってないんだよね。使いづらかったらごめんね」

「いいえ、指だから嬉しいわ」

「イカ天の細胞の入った体に絆創膏は必要ないけど、ポケットに入れたままにしておいて良かった!こうやって黒葉ちゃんに使って貰えて」

人に親切にし喜んで貰えて喜ぶ、その表情は純粋な笑顔だった。


 任務が終わり帰って早々、強はトレーニング室に行く。毎日コツコツ欠かさない男である。だが、今は筋トレ前に片づけをしていた。騎士が持って来た誰からなのか分からないプロテインの入った箱も片づけなければいけなかった。結構お高いプロテインは特別な日に飲むことにしていたため消費は遅かった。段ボールに隙間がだいぶ出てきたので段ボールから出して別場所に保管しようと整理する。その時に段ボールの下にある紙が紛れ込んでいることに気付く。強はそれを手に取り読んだ。

「懸賞当選おめでとうございます・・・松石・・・和夜様・・・」

和夜は懸賞先からの手紙がプロテインの下敷きになっていることに気付いていなかった。


 キンバは自宅へ帰宅すると、机の引き出しからある物を取り出す。それは中学校の制服についていた第2ボタン。和夜が見つけてユミに修理の依頼をし会議室の席に置いてくれた物。そんな恩を返すことはせずに和夜へ失礼なこと、酷いことをするのを止めなかった自分を恥じた。中学校の卒業式では女子の誰にもボタンが欲しいと求められないのは空しかったが、逆に誰にもあげなくて良かったと強く思った。


 思い込みで弱いと決めつけ、ヒーローとして認めていなかっただけではない。親切も仇で返すという自分達のしてしまったことは決して許されない、許されてはいけないこと。それは生涯、消えることのない罪だと3人は強く思う。


 罪の意識は他の者達も同様に感じている。


 大切な仲間を自分が認められていないからと言って傷つけるだけでなく、自分を大切にしてくれた人までも憎んで傷つけたこと。


 大切な人の支えになれなれず、約束通りに守れなかったことを申し訳なく思うこと。


 大切にしたい人の気持ちを考えてした行動は間違っていたこと。


 大切な立派なヒーローを悪の道に引きずり込むようなことをしてしまったこと。


 大切な家族をこのバトル漫画の世界に巻き込んでしまったこと。


 様々だ。色んなキャラが様々な想いを背負っている。

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