第47話 芸術家

 和夜とイカ天は空を飛び任務へ向かう。和夜しか乗れないケオケオに和夜は乗っており、イカ天は隣で触手を器用に使いジャンプで飛んでいるかのように浮いている。

「イカ天、申し訳ないんだけど、お願いがいくつかあって・・・今回の敵は私に譲って欲しい」

「それは良いけどイカ天って呼び捨ては寂しいなぁ。一緒に温泉に入った時から冷た」

「当ったり前だろ!チクられてボコボコにされないだけありがたいと思え!何なら私があんたをイカリングにしてやる!」

「ヒヒーン!」

和夜はイカ天を置いていく。というよりケオケオが勝手にスピードを上げた。が、イカ天も負けない位に移動スピードは早いため距離は直ぐに縮まる。

「追いついた・・・今回の敵は譲れって何かあったのかい?」

「何となく私が倒したいだけ」

「ふーん。まぁ、良いよ」

話をしながら2人は向かう。


 和夜とイカ天が目的地に着き、準備が出来たら建物を見つめていた。

「さてと・・・どんな風に潜入する?って、えええ!?和夜ちゃん!?」

和夜は変身し建物に勢いよくキックする。まるで道場破りのようだ。キック後には何事もなかったかのように変身する前の元に戻る。

「毎回そんな強引に入るのかい?」

「そんな訳ないだろ」

驚くイカ天をよそに和夜は建物に入って行く。その後ろをイカ天は付いて行く。

「人気がないね」

イカイケメンの言う通り暗い、人が居ない、何もない部屋ばかりだ。


 建物内をうろちょろしていると、遠くから恐ろしい奇声が聞こえた。和夜は声の聞こえる方へ迷いなく走り出す。

「ちょっと、和夜ちゃん!」

もう彼女の目にはイカ天が見えていないようなものである。声が聞こえる部屋の扉を勢いよく開けた。手ではなくドロップキックで開けたのだ。部屋に入り咄嗟に鼻を手で塞ぐ。鼻だけじゃない。目も隠したいほどの酷い有様だった。

「死体を絵の具にすると最高な絵が描ける!この絵を完成させて今度は最高な歌を作る!最高な絵を見ながらじゃないと歌は作れないからな!」

奇声をあげながら男が言った。その男は両手に絵の具を持っていた。いや、あれは絵の具ではない。先端は刃物、ぱっと見は絵の具に見える凶器だった。というか、手がそうなっていた。

「でもなー、1カ月前の死体だと微妙だなー・・・やっぱり新鮮じゃないと」

男は和夜の方を見る。実に気持ち悪い表情で言った。

「ちょうど絵の具・・・お客さんがいらしたしね」

和夜は男を睨みつけ、出来るだけ怒りを抑えて言った。

「貴方が・・・いや、あんたみたいな奴には敬意を払わなくても良いな。何なら払うべきじゃない・・・お前がやったんだな。この死体のありようは、血も涙もない野郎だな」

「血も涙もある奴が最高な作品を作れる訳ないだろ。私は最高な芸術家なんだからな」

「最高の芸術家なら人を傷つけないはずだが?」

男が凶器を振りかざすが和夜は避ける。

「うるさい!こうしないと俺は最高の物が作れないんだ!」

男がまた奇声をあげる。和夜は耳を塞ぎたくなったが腐敗臭に耐えられずに鼻を手で塞いだままだった。

「俺は芸術家なんだ!ピアノが上手い、バイオリンが上手い、絵が上手い、歌が上手い。そういう奴の血を使って絵の具にして描かないと、そうしてからじゃないと絵も歌も作れないんだよ!・・・お前も俺の絵の具になれー!」

奇声をあげながら男が和夜に襲い掛かる。見事に和夜は交わすがミスって凶器が服をかすめた。それをイカ天は見ていた。いつの間に居たのだろうか。

「危ないな~、手伝おうか?」

「いらん」

「つれないな~」

和夜は男と距離を取ったところで構えた。男は凶器を近づけて全力疾走で来る。

「因果応報!無敵返し!」

男は自分の凶器が刺さり吹っ飛ぶ。白い壁にちょうどよく当たる。

「そこに、白いキャンパスがあって助かった」

男はまさか自分に自分の凶器が当たると思わず痛がる。その衝撃により、両腕がなくなっていた。

「芸術家を気取りたいなら、自分の血で描け」

「黙れー!・・・腕が、俺の腕が」

痛がっていたが意地で動いているようだ。そこへ、和夜が軽くキックをする。男はバランスを崩し倒れ、すかさず和夜が馬乗りになる。まともに食事を摂っていなかったせいで体重が軽くなっていた男は上手く抵抗が出来なかった。

「私も小学生の時に漫画家を目指していたことがあるから気持ちは分からなくはないよ。自分は特別、上手く絵を描ける訳でもなかったし・・・でも、1番・・・1番に憧れていたのは自分で作った歌を歌う歌手。あのロック歌手みたいな。人には恥ずかしくて言えなかったけど・・・まぁ歌が特別、上手じゃなかったし人前で歌う勇気もなかったし」

「何の話だ。腕、俺の腕、返せ」

「芸術への感動や憧れ、上手い人に嫉妬することも分かるよ。芸術に限らず、自分には持っていない者を持っている人に対する気持ち・・・でも、本当に芸術家なら人を喜ばせろ。人を傷つけるな。巻き込むな」

「うるさい!黙れ!俺は人の血を絵の具にして描いて最高の歌を」

和夜は胸ポケットから不死長老に渡されていた銃を出し、男のおでこに当てる。

「その焦りようだと銃を撃ったら死ぬんだな」

「止めろ、止めてくれ、撃つな」

「殺された人達も同じだったろうな」

「頼む。頼むから。償うから。撃たないでくれ」

焦る男を和夜は黙ったまま、少しの間だけ見つめる。

「正直に答えろ。お前は才能のある芸術家を絵の具にしないと絵も歌も完成することは出来ないと言ったな?その行為には嫉妬がないか?」

「ない!」

「本当か?少しも?」

「言ったら銃を離してくれるのか!?あった!あった!」

「へぇー」

男の様子を見ている和夜は一瞬だけ鼻で笑う。

「お前も俺みたいに芸術家を目指したことがあるなら分かるだろ!?生まれながらの才能、努力に関係なく素晴らしい才能を持った奴に対する憎悪が!」

「・・・ああ・・・分かるとも」

一瞬だけ悲しそうな、複雑な心境を感じさせる表情をする和夜であった。

「だろ!?だから、殺したんだよ!正直に言えば銃は下せよ!?」

「良いから・・・本音を薄情しろよ」

「お前のことなら知ってるぞ!ネットでは弱い弱いとか1番レベルの嫌われヒーローだから覚えている!だったら、俺の気持ちは少しは分かるだろ!?評価されない、認められない悲しみを!」

「お前の本音は私に対しての侮辱か?」

「違う!俺も同じだ!俺はアイツ等よりは才能はない!いくら努力をしようと生まれながらに才能がある奴には勝てなかった!だから、だから」

「・・・歌え・・・お前、最高の歌を作りたいんだろ?今なら作れるんじゃないか?その気持ちを歌詞にでもすれば」

「ああ・・・歌うから。歌ってやるから、まずは早く銃を下して、待ってくれ・・・」

男が何かを言おうとする前に銃声は響いた。それを、和夜は黙って見ていた。男が動かない、死んだことを確認するとホッとして深呼吸をした。

「いじわるな殺し方するね~」

イカイケメンがいつもの感じで歩いて来る。立ったまま軽く屈み、横から和夜の顔を覗き込む。

「鼻が・・・鼻が痛い・・・臭いがきついの忘れて思いっきり吸っちゃったー」

顔色が悪くなり苦しそうにする和夜。

「おやおや、ん?・・・気のせいか」

背後に人の気配を一瞬だけ感じイカ天は振り返る。が、今は和夜の体調回復が優先なため、和夜をお姫様抱っこして触手を使い一瞬で外に出た。


 1本の木の下でイカ天は和夜を抱えて自分の膝に座らせていた。外で待って貰って居たケオケオも来る。

「やぁ、ケオケオ、任務は終わったよ。でも、和夜ちゃんは腐敗臭に耐えられなくてね。今は外の空気を吸って休んで貰ってるんだ」

「ヒヒーン!」

そんなことは分かってる!さりげなく和夜に触ってないで俺に乗せろ!俺の体の方が枕代わりに丁度良いだろ!とケオケオは思っていた。イカ天には通じているのかいないのか和夜を抱えたままだった。

「・・・ありがとう・・・助かった・・・」

「顔色も良くなって来たね。良かったよ」

「ヒヒーン!」

良くなったなら早くソイツから離れて俺に乗れ!とケオケオは思っていた。

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