第32話 チーム分け

 その後、集まった12人に対してコラボイベントの詳細が発表された。

 ゲームは、4人一組で3チームに分けてダンジョン各地に仕掛けられた宝箱を争う、チーム対抗お宝争奪戦。


 ダンジョンには、ミミックも含めた宝箱が無数に湧いてくる。もちろん、ダンジョンによって個体差があり、ミミックと本命の割合や、湧いてくる数も千差万別だ。

 中でもこの浜松のダンジョンは、ミミックの割合が多めで、しかし宝箱の数は他のダンジョンに比べて多いという特性を持つ。


 トレジャーハント向きのダンジョンなのだ。


(制限時間は三時間。対象となる2~15階層までの間で、より多く当たりの宝箱を引いて、ポイントを集めてきたチームの勝利。各チームの攻略の様子は、リアルタイムで生配信される、か)

 

 イベント概要発表後。

 チームメンバーを決めるスロットくじの準備が終わるまでの休憩時間。一樹はホールの壁に背中を預け、1人物思いに耽る。


 チーム対抗となれば、当然チームでの連携度がものを言う。

 なんとかメンバーと仲良くなって、有利に攻略を進めたいものだ。


(それにしても……)


 一樹は大きくため息をつく。

 災難と言うよりほかなかった。

 だが、葵と仲直りできたことだけは進展と言えよう。


(ま、それ以外に失ったものが多すぎるけどな)


 目下、一番の問題が涼城しろである。

 12人の配信者がいて、チームは4人ずつの3チーム。33・3%の確率だから、順当に考えれば同じチームにならない可能性の方が高いが。


「言っておくけど」


 不意にツンケンした声が聞こえたので、そちらを見る。

 一樹と同じく腕を組んで壁に背中を預けている涼城がいた。


「て、手作りクッキーを貰ったくらいで優位に立ったと思わないで。あれはそう、麗しき帆艇葵様は慈悲深い方だから、あなたのような金魚の糞にわざわざ手ずからクッキーを用意しただけ。そう、それだけのことよ。そうとしか有り得ないんだからぁ!」


 なんか余裕ぶった顔からボロボロと仮面が剥がれ落ちていく。頑張って自分を正当化したいみたいだ。


「うん。わかってるわかってる。俺のような下賤な民に心を砕いてくださっただけだよ、だから心配すんな」

「なんか納得いかないんだけど。まるで、私が自分で自分を慰めてるみたいな言いぐさじゃない」

(え、そうじゃないの?)


 一樹としては、相手するのが段々面倒くさくなっている。

 というか、放っておいても勝手に自滅しそうなまである。


「大体、なんであなた葵様に対しては当然のことではあるけど敬語で、私に対してはタメ口なのよ」

「お前だってタメ口じゃんか」

「それはそれよ」

「それはそれなのか」


 一樹は小さく肩を落とす。

 たぶん、彼女の中の力関係では帆艇葵>>>>>涼城しろ>>>矢上一樹、みたいな感じなのだろう。


「まあいいわ。あなたとは、今回のイベントで決着をつければいいだけ」


 ふわっと、自身の髪を掻き上げてドヤる涼城。


「決着ぅ?」

「そう。どちらが帆艇葵様の隣に立つのに相応しいか!」


 デンッ! という効果音がつきそうなポーズで一樹に指先を突きつけ、啖呵を切る涼城。

 一樹はしばらく呆気のとられたあと、当然の疑問を口にする。


「……これ別にそういう趣旨の勝負じゃなくね?」

「どちらが葵様の隣に座るに相応しいか、一つしか無い席を奪い合うの!」

「だめだこの人本格的に話が通じない」

 

 勝手に英雄だの良い奴だの言われている一樹だが、この人だけは苦手かもしれない。


「大体、チーム分けは完全にランダムで――」


 更に説得材料を突きつけようとした、そのときだった。


『お待たせいたしました。抽選が終わりましたので、ただいまよりチーム分けを発表します。チームはA~Cの3チームで、4人ずつとなります』


 ホールに、アナウンスが流れる。

 同時に、正面にあるスクリーンにゲームセンターにあるスロットのような表示が4つ現れ、各メンバーの名前がそれぞれ高速回転している。

 たぶん、1チームのメンバーをスロットを止めることで順番に発表していく形式なのだろう。


『まず、Aチームの発表です。では、どうぞ!』


 アナウンスにあわせて、回転しているスロットの一つ目が動きを止める。

 表示された名前は『帆艇葵』。今大会の大本命だ。


 そして更に二つ目が動きを止める。

 表示された名前は『若井文』。さっき話した、大阪弁の気さくな少年だ。

 

 そして、3人目――


「ふっ、勝った」


 表示板を見た隣のヤバい奴が、不敵と言うか邪悪に微笑んだ。

 その表情が示す通り、でかでかと表示された名前は『涼城しろ』。

 

「わるいけど、私は今回葵様の側近としてあなたと勝負してあげる。さあ、あなたはどう頑張るの? 葵様に勝利を献上して地面に這いつくばるか、それとも憎き私を蹴落とすために全力を出して無様に負けるか!」

「どっちにしろ負ける前提なのな」


 だが、一樹としてはどちらも選んでやるつもりはない。

 勝負は勝負。このクソウザい小娘を“わからせ”て煽るくらいのことはしてやりたい。そして、ちょっと無様な思いをしてもらってもバチは当たらないと思う。


(いいよ、全力で挑んでやる)


 そう、口にしようとしたとき、最後のメンバーが表示された。

『イヌガミ』

 誰がどう見ても、

『イヌガミ』


「え、あれ……?」


 その表示板を一緒に見ていた涼城の顔から、さーっと血の気が引いていく。


「えっと……これBチームだよよね? Aチームじゃなく」

「Aチームだよ、残念だけど」

「……ね、ネコガミさんて人と間違えてるのかも」

「イヌガミって書いてあるし、そもそもそんな名前の人参加者にいないと思うよ」

「…………」


 たっぷり10秒だった。

 何をどう足搔こうと、これは変えようのない現実だ。

 プルプルと震えながら一樹の方を振り返った涼城は、若干涙目で恥ずかしさに真っ赤になった顔で、


「せ、正々堂々、た、たた、戦いましょう!」

「やめとけ流石にもう現実を受け入れろこれ以上は虚しいだけだ」

 

 

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