第72話 裏切り
「何か考え事かしら?」
屋敷の食堂でエヴァはミルクココアをメノウに差し出した
「ありがとう」
メノウはミルクココアを口につけた
温かく甘く優しい味が口に広がる
「あなたのことだから、覇下たちを殺したことを悩んでいるんでしょう?彼らを殺したことは人殺しになるのかどうか」
エヴァの指摘にメノウは驚いた
「なんでわかるのよ?」
「人を殺せない半人前のあなたが考えそうなことだもの。予想はつくわ」
覇下たちは人間との混血である
そして、最初は人間としてこの世に生まれてきて年月と共に魚人としての姿に移り変わってゆくとシーモアは言っていた
ならば彼らは姿形は違えど、人間とも呼べる存在なのではないか
完全義体のサイボーグになったとしても人間をやめるわけではない
その魂が人間である限り人間だというのがメノウの、いや、世間の認識だ
ならば、魚人の姿をした彼らが人間の魂を持っていたとしたら、自分は人を殺してしまったことになる
「馬鹿ね、そんなこと、悩むだけ無駄よ」
エヴァは冷静な口調でキッパリとそう言った
「でも」
non、nonとエヴァは指を振るう
「ブラックブライドはいったい、どんな教育をしているのかしら。人を殺せないGUNS N' AIGISなんて、聞いた時はふざけていると思ったわ」
エヴァはため息をついた
「武器を向け合ったら、殺すか、殺されるかではないの?この世のたった一つの平等は命はお互いに一つであること。そこに人間か、非人間化の違いなんて、関係がないわ。おめでとう、あなたはようやく、人間を殺したのよ」
「私が人殺し・・・?」
メノウは手が震えるのを感じた
今まで、怪物たちは銃で撃ち、槍で突き、殺してきた
だが、改めて人間を殺してしまったとなると、一線を超えてしまった恐ろしさが襲いかかってくる
違う
あたしは人殺しじゃあない
あれは、あいつらは人間なんかじゃあ
でもそれを否定することはシーモアたちを人間ではないと否定することにつながる
メノウは彼らを人間ではないと否定する気にもなれなかった
「人を初めて殺した感想はどう?」
エヴァは表情を変えずに尋ねてきた
「最悪な気分だよ・・・!」
メノウは顔を歪めて吐き捨てるようにそういった
エヴァはパチパチと拍手する
「おめでとう。ようこそ、こちら側へ。大丈夫、すぐになれるわ」
メノウはココアを一口した
ココアはすっかり冷め切っていた
複数の銃声が2階で鳴り響いた
「何!」
メノウは亜空間からショットガンを取り出す
「上は!まさか、シーモア様!」
エヴァはホワイトカラーの『ドラゴン』を抜き放つと階段を駆け上がる
シーモアの部屋を開くと青い血まみれのシーモアが倒れていた
「シーモア様」
エヴァはシーモアが抱き抱える
胸部が銃弾で貫かれており血が止まらない
その顔に死の気配が色濃く出ている
「エヴァ、頼む、九龍の涙石・・・、あれを・・・」
そのまま、シーモアは息たえる
「大変、ジェットがいない!」
メノウがドアから顔を出して叫ぶ
「やってくれたわね・・・!」
エヴァがぎりっと奥歯を噛み締めて怒りの表情をみせる
初めて、無表情の彼女の感情に溢れた表情をメノウは見た気がする
その表情はまるで牙を剥く猟犬のようだと、メノウは感じた
ジェットが裏切った
メノウとエヴァはそのことを察した
窓が開いている
九龍の涙石を奪い、ここから屋根伝いにジェットは逃走した
ズドオオオオオン!!
地響きがするほどの巨大な爆音
地下街であるこの街の天井に大きな穴が、覇下の軍団がせめてくる
そこには巨大な魚人たちの姿もあった
ズガガガガガ!!
巨人たちはミニガンを乱射し、ミサイルランチャーを発射する
シーモアの仲間たちは必死で抵抗するも、対陣は一斉に崩れてしまう
その崩れた陣に、重装備の覇下たちが
迎え撃つシーモアの仲間たちの武器はハンドガンやサブマシンガンなど雑多な銃火器、火力的にも差がありすぎる
戦闘にもならず、彼らは次々に青い血を撒き散らしながら死んでいった
極めて一方的な虐殺である
世界中で人間が人間を殺すように、この街では魚人が魚人を殺すのだ
覇下宮の街は次々に炎に包まれてゆく
その炎は
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