第66話 シーモア=シェン

メノウとジェットはエヴァに言われるがまま、屋敷の主人の書斎に連れてこられた


「くれぐれも、失礼がないようにお願いするわ」


そう言いながら、エヴァはノックをする


「旦那様、エヴァです。二人を連れてきました」


「入ってもらいなさい」


部屋を開けると香炉が建てられており『龍香』の甘い匂いが漂ってくる


二胡のメロディが机の上に置かれたレコードプレーヤーから流れてきた


部屋の作りはマカオで見られるような西洋文化と中華の融合したようなものである


中国の高級絨毯である『段通』が敷かれた部屋に一人の男が佇んでいた


青いメッシュが掛かった黒い髪を後ろに縛った2メートルくらいある身長の大男で、歳のころは40代後半というところか


部屋の中だというのに紫色のサングラスをかけて、手には白い手袋をし、肌の露出が少ない大柄な紳士は二人に向かって会釈をした


「さっき、銃声が聞こえたが、エヴァが、銃を撃ったのかね」


「ああ、俺は2回も殴られた。あんた、メイドにどんな教育をしているんだ?」


「それはすまなかった。だが、彼女はああいう人だが、悪い人ではないことは信じてほしい」


男はそういうがとても、銃を突きつけられて悪い人じゃないとは思えなかった


あんな暴力メイドは、とっとと暇を出すべきではないのかというのがメノウとジェットの共通認識だった


「私の名前はシーモア=シェンと申します。あなたたちのことをお聞かせ願いたい」


「俺はジェット=チェン」


「私はメノウ=グスク。助けていただきありがとうございました」


「そうか、メノウさんとジェットさん。悪いことは言わないが、嵐が明けた後は、すぐにこの街から出て行った方がいい」


「ここは、どういう場所なんですか?私は、深海シェンハイという名前の町が海上都市ベネグラスにあるなんて聞いたことがないです」


メノウはシーモアに尋ねた


「ここは海上都市の西にある小さな集落だ。君たちは、ベネグラスから海流に流されてきたんだね。深海シンハイ、中国系移民が開いたこの街はこれでもかつては漁業や造船業が盛んでね。街とさえ言われていたが、もう、寂れて島の外の人間からは忘れ去られつつある」


「なぜ、この集落から出ていった方がいいというのです?」


「恥ずかしいことに、この街は20年前に寂れて以来、経済の中心だった造船業が廃れてね、それ以降、治安があまり良くないんだ。皆、よそ者が嫌いなのさ」


メノウは別にこんな街にも屋敷にも別にいたくなかった


とりあえず、この目の前のジェットを捕まえて、この街から脱出する


「おい、あんた、雨魚ユーユイという女を知らねえか!この街にいるはずなんだ!」


ジェットは突然、シーモアに詰め寄った


「なぜ、彼女を知っている?」


「俺の女だ。頼む、俺はあいつを探してここまできたんだ!」


「会わない方がいい。おとなしく、嵐が明けたら、この街から出て行く方がいい」


冷たく言い放つシーモアにジェットは必死で詰め寄る


「そんなことを言わないでくれ!やっと、見付けた手がかりなんだ!」


その時だった


窓ガラスが割れて何かが飛び込んでくる


そいつらは、全員で三匹、鱗の生えた肌をした魚のような人間のような生き物だった


魚人たちは持っていたサイレンサー付きのH&K M K22をシーモアに向かって構える


「あぶねえ」


ジェットはシーモアを押し倒す


銃声が鳴り響き、銃弾がシーモアの腕を掠めた


「旦那様!」


物音を聞きつけ部屋に飛び込んできたエヴァは手にした銃『ライドアウト・アーセナルドラゴン』で瞬く間に、魚人たちを射殺してゆく


一瞬で、三人を撃ち殺すのを見て、メノウはこのメイドが改めて常人ではないことに気づく


その腕はいつも見ているユナ=ブライドと全く引けを取らない


何者なの、このひと


「大丈夫ですか、旦那様」


「ああ、ジェット君のおかげで弾丸を掠めただけだ」


「あ、あんた」


ジェットはシーモアの傷を指差した


傷口からは青い血が流れ、赤い絨毯に滴り落ちていた






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