第51話 戦友

アルカディアの本部でGUNS N’ AIGISのメンバーが集められた


部屋にあるモニターにその人物の映像が映し出される


軍服を着た左目に刀疵が入った隻眼の老人の写真が映し出される


「現在、連邦の外交次官の暗殺者として極秘裏に指名手配されている道敷カグトだ。この老人は元欧州連合軍の大佐、かつては『欧州の戦士』と言われて、後に『大戦の英雄』と呼ばれた男である」


No.Ⅱタナトス=バーンが続ける


「軍人としてあらゆる分野に優れていた彼の特に優れたところは、若手の育成だった。戦略、諜報、射撃、近接戦闘、その全てを教えて育った兵士たちとともに、大戦で欧州連合軍の勝利に貢献した。しかし、大戦の後、彼は姿を消した。そうだな。ランドルフ=ピグマリオ」


タナトスの問いかけにランドルフが頷いた


「その通りだ。私も昨日、彼に会うまではもう死んだものだと思っていた」


ランドルフはどこか懐かしそうに続ける


そう、ジルには見えた


ランドルフは大佐に戦友以上の特別な感情を寄せていたのではないか?


「彼とは軍にいた時から上官と部下という関係でな。戦場でいろんな任務に着いたし、新しい近接戦闘術CQCを共に編み出したこともあったよ」


「ランドルフ」


話を聞いていたジルが口を挟む


「私情はないのよね?」


念を押すように尋ねる


もし私情を挟み、任務にしくじられては困るのだ。


私情を挟むと言うのならば、この任務から彼を外すのも隊長としての自分の役目でもある


「無論だ。私は組織に入る前から、軍にいた時から、暗殺と諜報を任されてきたのだ。仕事の中で私情を挟んだことはない」


その青いの瞳には嘘をついているようには見えない


最も作り物のサイボーグの瞳から、物事の真偽を判断できるかどうかはジルにもわからなかった


「確かに。あなたはGUNS N’ AIGIS設立の立役者であり、私たち全員の師でもある。私はそんなあなたが敵に一矢報いられないで負けたというのが信じられないのよ。友との戦いに一切の私情は挟んでなかったと言い切れるのね?」


「無論だ。奴は十年前よりも更に腕を上げていた」


「80近いというのに、まだ、強くなっているということかよ。その御老体は、もはや、仙人か妖怪かのレベルだぜ」


ランドルフの話を聞いてゲイルは苦笑いを浮かべる


「どう思う。師匠マスター。『戦友』の暗殺の手段は、銃撃か?狙撃か?刺突か?」


とレオンが尋ねる


レオンはランドルフを師匠マスターと慕う


レオンもまた、ランドルフより、CQC《近接戦闘術》や暗殺術を学んだ男なのだ


「ふむ」


ランドルフは少女の姿をした自分の顎を撫でて考えるそぶりを見せた


「おそらくは、古代よりの定石に乗っ取った暗殺において、自分の命を賭して確実に殺せる刺突だと思っている。昨日、拳を交えて、奴はそれを可能にする覚悟と、力があると感じた」


「私からも一つ質問がある」


ブライドは手を挙げる


「なんだね。ブラック・ブライド」


「なぜ、戦争の英雄である彼が自ら姿を隠した?その必要があったのだ?」


「それは奴が敵味方からも知りすぎた男だったのだ。彼が生きていて戦後を迎えられては困るという人間が敵にも味方にもいた。奴は、死を迎える野良猫のように姿を消すしかなかったのだ」


「もう一つ、彼とは親友だったのか?」


ブライドの言葉にランドルフは首を横に振った


「いや、彼とは戦友だ。上司と部下の関係以外の感情は何もない」

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