6.モテてるって、勘違いしちゃうよね♡

 それから一週間が経過したが、未だに紅真の人気は衰えず。


 むしろ結夏の目には、勢力を増しているかのようにも見えていた。


「もう、なんなのよアイツ……」


「どうしました会長。今日はいつになくご機嫌ななめの様ですが」


「あら、ごめんなさいね。昨夜、少し夜更かしし過ぎたかしら」


「そうですか。夜更かしは乙女の敵ですので……どうかお気をつけなさいますよう」


「ええ。お気遣い感謝するわね」


 平静を装いながらも、視線は紅真に向けられていた。


 相変わらず女子人気は高く、結夏からの握手を断ったことで男子からの人気……? 信頼……? も手に入れている様子。


 未だに登校時にはこうして親衛隊を連れているけれど、以前のような熱気で騒ぎ立てられることが少なくなったような気がしている。


 これは結夏にとって、由々しき事態だ。


(どうしたものかしら……)


 昼時になり、紅真は鞄から持参した弁当を取り出し、一人のまま手を合わせた。


「いただきます」


 その様子を見た、普段は親衛隊をしているサッカー部の男が紅真に声をかける。


「ねえねえ嵌勝くん、向こうで俺らと一緒に飯食わねえ? そろそろ俺らも仲良くしたいなって思ってさー」


 紅真が顔を上げると、奥の方で手を振っている数人の男たちの姿が見えた。


 少々、考えるような素振りを見せるが、紅真の出した答えは結夏の時と同じだった。


「……必要ない」


 サッカー部の男は苦虫を噛み潰したような表情を一瞬浮かべたが、それはすぐに引きつったような笑顔に変わった。


「そ、そっか。んじゃまた今度だな」


 紅真は、彼の言う"また今度"が二度と来ないことを悟った。すると、サッカー部の男とすれ違うようにして、目元まで前髪を伸ばした女子生徒が紅真の元に近づいてくる。


「あ、あのぉ〜嵌勝さん……も、もしよかったらぁ、今から校舎裏まで来てくれないっすかぁ……?」


 頬をサクラ色に染め、くねくねと落ち着きがない様子の女の子。


 遠くからはギャルっぽい集団がニヤニヤと視線を送っていることが伺える。


 従来通り、断ろうと小さなため息をつく。しかし女の子は紅真のため息に被せて小動物のような叫びを上げた。


「じ、じゃぁっ、待ってるっすからぁっ!」


 断り文句を言い始める頃には、既に彼女の姿は無かった。


 紅真は「……どうしたものか」と食べかけの弁当を見つめて苦悶の表情を浮かべる……が、考えるだけ時間の無駄だ。


 紅真は風呂敷を包み、胃袋に蓋をした。


 今日のだし巻き、自信作だったんだがな。

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