5.短いかも♡

 結夏はふっくらと上手に焼けたホットケーキを見つめるかのように、にっこりと微笑みかける。


 差し出された手を取りたかったであろう男たちの怨念が高まり、人間の形を保てなくなりそうな生徒たちまで出始めた。


 女子たちもイケメンと美人の握手を今か今かと固唾を飲んで見守る中、紅真は机にかけていた鞄を手に取り、立ち上がった。


「必要ない。だいたいは把握している」


 表情一つ変えないまま去っていく紅真。


 彼の背中が見えなくなった所で、緊縛が解けたかのように生徒らが動揺し始める。


「会長が……断られた……?」


「あ、アイツ……何者だよ……」


「俺たちが一億払ってでも触りたい、あの会長の手が目の前にあるのに……!?」


 結夏は暫く固まっていたが、差し出した自分の手のひらを軽く握り、微笑みを辞めた。


(はあ!?!?!?!?!?!?!?!?)


 思わず、目を泳がせてしまう。


(私の、誘いを……断った。それだけじゃなく、誰もが触れたいと望む、私のこの神聖な手に触れることすらしなかった……わね。ええ、どういう……何様のつもりよ。緊張した? 照れちゃった? そんな感じは全くしなかったわ。だとしたら私は…………)


「あ、雨粒会長……大丈夫ですか……?」


 心配そうな顔で見つめてくる女子生徒に対し、結夏は再び天使のような笑みを浮かべる。


「……ええ。ちょっと驚いちゃいましたけれど。さて、私は生徒会の仕事が残っているので……みなさん、ごきげんよう」


 言いながら、結夏はそそくさと荷物を纏め、教室を後にした。


 外では夕日が美しく輝いていて、風が心地よく吹いていた。


 けれど、彼女の心は醜く暗く、地の底から魍魎が這い出てくるかの如く闇に染まっていた。


(嵌勝紅真、ムカつくムカつくムカつく!)

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