唐代七詩人・100回100点出さないと出られないカラオケルーム
セオリンゴ
第1話 李白、两日(ふつか)にして狂態を現す
とあるカラオケルームに朗々と詩吟が流れて、すでに
「
李白の
「俺は閉所恐怖症なんだあぁぁぁ! いい加減ここから出してくれぇぇぇぇ!」
その隙に
「ああ、もう誰が俺たちをこんな部屋に誘いこんだんだ! 出てこい! 脳天かち割るぞ、ゴルァ!!」
その時である。部屋の隅で影のように立っていた
向晩意不適 (夕刻になって気分はふさぎ)
驅車登古原 (馬車を駆って、古来の高原に登る)
夕陽無限好 (夕陽は限りなく素晴らしい)
只是近黄昏 (それは一層の夕闇が近いために)
完全にアカペラの世界である。吟じ終えて58回目の100点が表示されたところで
「さすがに気力が尽きたのであろう。我々は丸々两日、ここに閉じ込められているのだ。幸い、食事は注文できるし、厠もある。相手が機械であるのは理不尽だが、さりとて怒りで壊してしまっては本末転倒であろう、
李白は杜甫の腕を振り払い、ソファに突っ伏した。
「俺だって分かっちゃいる。分かっちゃいるけど、自分の詩を自分で詠んで100点出ないのが悔しいんだよぅ~~」
ほとんど泣きっ面である。それを白居易がほっほっと軽くいなした。
「詩仙といわれた李白どのが、こうも面白い男とは」
白居易は李白の死から10年後に生をうけ、全く面識がない。反対に李白と杜甫と王維はほぼ同時代を生きた。特に杜甫と李白はともに一年半も旅をするほどの仲だ。3人は唐代玄宗皇帝の世に育ち、開元の治と呼ばれる盛唐の時代、それを打ち壊した安史の乱という地獄を経験してから世を去った。逆に白居易は安史の乱が収束したあとの、ゆっくりと唐が衰退する時期に生きた。
ちなみにカラオケルームの面々は、王維が699年生まれ、李白が701年生まれ、杜甫が712年、白居易は772年、杜牧803年、李商隠821年である。
李白は拗ねてみせる。
「ぺいっ! 俺と違って朝廷にお仕えするのが上手かった楽天(白居易の字)さまに言われたくねえよっ!」
どうやら世代格差に経歴格差が便乗して、下っ端の宮廷詩人を短期間務めただけの李白の憤懣が頭をもたげていた。彼は商人の出自ゆえに官吏登用試験の科挙を受験できなかった。その悔しさは名門出身の白居易には分かるまい。
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