4 タイムカプセル

 白川しろかわは小学校六年生の時に、自分の寛容性かんようせいの無さからクラスに馴染なじめず、木田恵きだめぐみというクラスのリーダー的女子を中心としたグループに嫌がらせを受けていた。


 いじめの中心グループは、さいわい限度を超えるような肉体的攻撃はしてこなかったが、陰湿いんしつな精神攻撃は手を変え品を変え、卒業のその日まで続いた。

 加わらなかった他の生徒たちも矛先ほこさきが自分に向けられるのを恐れてか、いじめを先生に通報する事も無く、見て見ぬふりを続けた。


「あの頃の私は精神的にズタボロだったけど、これも人生経験だと自分に言い聞かせてえ続けたの。人間のみにくいところを嫌と言うほど味わったわ」

白川は怒りをおさえるように、ゆっくりと息を吐いた。


「それから三年って、何気無なにげなく卒業アルバムに目が行き、昔のひどおもい出を回想していた……というところで話は途切れていたな」

俺は白川の話をつないで、先をうながした。彼女はテーブルに両肘りょうひじを立て、両手を口元で組んだ。


「私は三年の冷却期間をて、冷静にあの頃の卑劣ひれつな行為を一つ一つ振り返ってみたの。そして、心のどこかにずっと溜め込んでいた怒りが沸々ふつふつとわいてきた。何か報復ほうふく出来る事はないかと頭をひねったわ」


「ごめん、のどかわいてきた。さっきの冷たい麦茶か缶コーヒーをくれると有難ありがたい。あ、ブラックしか無かったらお茶でいい」

「学校一の美少女に対して遠慮が無いわね。人見知ひとみしりはどこへ行ったのよ?」

白川は愚痴ぐちをこぼした後、急いで階段を下りて行った。


 まるい漆塗りのお盆に麦茶の入った冷水筒ピッチャーとグラス二つ、缶のミルクコーヒーを二つせて白川が戻って来た。俺は礼を言って、早速冷えた缶コーヒーを受け取り、話の続きを促した。


「卒業式が終わった後、担任の先生とクラス一同は校舎の裏庭のひっそりとした植え込みの隙間に穴を掘って、タイムカプセルを埋めたの。八年後の二十歳になった自分にてた手紙と、嵩張かさばらない程度の持ち寄った記念品をえてね」

白川は腹黒いみを浮かべて言った。


俺は机の上に置かれた、くすんだブリキの箱に目をった。

「おさっしの通り。これがその時のタイムカプセル。私は引っ越してここへ来たから母校へは少し遠かったけど、報復を決意した翌日に、自慢の変装を駆使して小学校に侵入した。無事にこれを掘り起こして持って帰ってきたワケよ」

白川はそう言って、四角いブリキの箱を開けた。中には様々な色の封筒と、お菓子やキーホルダーなどが入っていた。


「私にとってクラスメイトはみんないじめの加害者。そんな卑劣な奴らが、当時どんなおめでたい手紙を書いていたのか見てやろうと思った。そして一人一人の手紙の筆跡を真似まねて書き換えて、元に戻して埋めなおす。……奴らが成人し再びタイムカプセルを開封して、自分自身に宛てた手紙を見た時、その内容のひどさに衝撃を受けるはず」

白川はコップにそそいだ麦茶をグビリと飲んで、ニヤリとほくそ笑んだ。俺は随分とおだやかな報復だなと思ったが、本人が満足なら問題は無い。あえて口をはさまなかった。


「それで、頼みと言うのは、そのタイムカプセルを埋めなおすのを手伝ってほしいという事?」

俺が白川の意向を推察し先回りして言うと、彼女はブリキの箱からありふれた茶封筒を取り出して、心を落ち着かせるように大きく深呼吸をした。


「この差出人不明の手紙が、タイムカプセルの中にまぎれ込んでいたの。卒業アルバムの名前と手紙を照らし合わせた結果、担任の先生と私を含めたクラスメイトたちが書いた手紙はすべそろっていた。タイムカプセルを埋めた時、あるいは私が掘り起こすまでの三年の間に、誰かが箱を掘り起こして、この茶封筒を紛れ込ませたのかも知れない」


 白川は何も書かれていない茶封筒から三つ折りにされた手紙を取り出して、俺の前に差し出した。

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