鍛錬

第8話

 隊服に腕を通して、フィアルカは目を閉じた。今まで憧れに憧れていた魔法騎士団の精鋭に、彼女はやっと入ることができたのだ。

「よし。」

目の前の姿見には、青い隊服をぴしっと着た少女が映っている。どうやら女ではなく男に見えるらしい、というのは昨日知ったばかりだ。もちろん初めは不機嫌になったが、今考えてみればたしかにそのとおりだ。声は低めで、普段話すときは敬語、砕けた物言いのときは男のような言葉遣い。そして個人的には認めたくはないが、胸は世間的に見ればいわゆるツルペタ。女として悲しすぎるが、それでもこれが真実なのだ。

「これが真実だ…そう、真実だ。」

悲しいかな、信じたくないことが真実なのだと気づいた時にはすでに、相談できる相手はいなかった。

「何を言っているの?これからよ、女は。あなた何歳なの?」

後ろから金髪碧眼のとてもきれいで女としてとても羨ましいジニアが現れた。フィアルカは羨望の視線を鏡越しに送りつつ、ボソリと答えた。

「十五。」

愛想のないその言葉に、ジニアは目を見開いた。そしてはぁっとため息をつく。フィアルカはなぜジニアがため息をついたのかわからず、首を傾げた。

「その歳で、あの魔法の精度…?体力がないのも頷けるわ。体がついてきてないのね。」

始めの言葉が聞こえずフィアルカは聞き返そうとしたが、ジニアがそれを拒絶しているように見えたので、声をかけられなかった。ジニアは赤い隊服を着たまま、水筒をポケットに入れてふらふらと食堂に向かっていった。フィアルカはしばらくそれを見送った後、はっと気づいて彼女自身も水筒を取り、食堂に向かった。遅刻には罰則がつくという。初日の朝から遅れるわけにはいかない。

 食堂と言っても食事の種類は多くはないだろう、とフィアルカは思っていた。しかし、目の前には不思議な光景が広がっていた。机も椅子もある、食べている人もいる。ただ、注文をしなくても良いのだ。席についてメニューを見て、決めたらそれを指差す。それだけですぐに食事が目の前に現れる。

「なにかあるでしょうとは思っていたけど、まさかここまでとは思っていませんでしたわ。フィアルカ、座りましょうか。」

ジニアは数歩歩いた。しかし、後ろからついてきているはずのフィアルカの足音がしないので不審に思って振り返る。

「フィアルカ、どうした、の…?」

フィアルカは目を見開いて食堂の中を見ていた。ジニアはその前で何度か手をふる。

「フィアルカ、大丈夫?」

なかなか気づかないので、今度はジニアは軽く何度か揺すった。それでやっと我に返ったフィアルカは、いつもの仏頂面を消して少しだけ口角を上げた。とても機嫌が良さそうだ。

「すごいな、これ。こんなの初めて見た。どういう術式が組み込まれて…あ、ごめん、座るか。」

フィアルカは興味津々であることを言葉で表現しようとしたのか長々と話そうとしていたが、ジニアのじっとりとした視線にぱっと口をつぐんだ。

「えぇ。座りましょう。」

空いている席を探している途中、ジニアは注目を集めた。当然だ。女性はあまりいない上にものすごい美人なのだから。フィアルカたちは、女性を一人も見かけなかった。部署によって食堂がちがうというので、戦闘のためのところにいない、つまり後方支援なのか、上官なのか、はたまた事務なのか。ともかく、騎士や騎士見習いの女性はジニアとフィアルカの二人だけのようだ。少しだけ衝撃を受けつつ、同時に納得する。よほど飛び抜けた才能がない限り、普通の筋力がある程度ではここには入れないのだ。

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