第33話  決別


これは愛莉が児童更生施設に転校するまでに起こった話だ。 


俺と…そして愛莉を祖父母は養子として迎え入れるために色々と動いてくれていたらしい。

それこそ結構な額をそのために使ってくれたらしい。

本当に頭が上がらない。

そして俺は愛莉と祖父ともう一人、立派なスーツに身を包んだ男性を伴い久しぶりに実家へと帰って来た。



インターホンを押しても誰も出て来ない。

俺は元々持っていた自宅の鍵を鍵穴に挿して家の中に入った。


家の中は留守という訳ではない。

誰かはいるのだろう。

部屋に引きこもっている義弟だったり今尚スマホに向かって呪詛をつぶやく義兄だったり、それにしてもなんか甘ったるい匂いがする。

祖父やスーツの人も顔をしかめている。

この匂いは知ってる。

不愉快だが懐かしいとは思う。

正直実家に帰ってきてこんな臭いは嗅ぎたくないが。


コレで確信した、彼奴等は家にいる。

わざわざ日曜日の昼間を選んで正解だった。

意を決し俺はリビングへと向かう。

リビングへと向かうととある男女の喘ぎ声が聞こえて来る。


「っっ!!」


「っっ!!」


ベッドの軋む音と絡み会う男女の声、

当然聞き覚えのあるその声に思わず顔をしかめる。

どうも真っ昼間からお盛んなようだ。

本当によくやる… 


俺はリビングへと続く扉を開け放った。

そこにはソファに半裸になった男女が重なっていた。

誰かなんていちいち確認する必要もない。

それは俺の実母と義父だった。



「へ……琢磨?……え…お義父さん」


「へ?はぁ!?」


「何を真っ昼間から盛っておる!!服を着ぬか戯けども!!!」



二人は突然の事で混乱の最中にあったが祖父の一喝で正気になったのか飛び起きてせかせかと服を着だした。



「あの…それで今日はどの様なご用件で…?」


義父が普段の態度からは想像もつかない程オロオロした態度で祖父に話しかける。

 

「決まっているだろう戯けが!琢磨と愛莉…わし等の孫は引き取らせてもらう。お前達にはその話をしに来た」


「はぁ!?」


「ちょ!?待ってください!!愛莉も琢磨も私の子供なんですよ!そんないきなり」


「何がいきなりなものか!遅すぎたくらいだと後悔しておるわ!貴様は琢磨達を我が子と認めた上で育児を放棄し、その男とまぐわい三昧、挙げ句自分の娘を義兄弟の性欲のはけ口に差し出すなど言語道断!最早お前に人の親を名乗る資格等無いと思え!」


「そ…そんな…」


「お言葉ですが私も妻もその様な行いはしていません、誠心誠意親として尽くして来ました」


「よくそんな見え透いた嘘をツラツラと述べられたものだな?え?貴様」


「な…何を根拠に…」



義父はそう口にするが彼の目は忙しなく義父の隣に陣取っているスーツの男に向いている。

もう解ってるのだろう、この人が何者なのかを…

故に義父の言った何を根拠にという言葉はダメ元の賭けのようなモノだったのだろう。

しかしそんなモノが通るわけもない。



「お前のやっていることは粗方調べはついてるんだよ。ではお願いします、弁護士さん。」


「は?弁護士…?」


祖父に言われ前に出てきたスーツの男、弁護士はカバンから数枚のファイルを取り出し義父と実母に向かい話しだした。



「私〇〇弁護事務所の葛西と申します、さて中岸さん、立儀さんの依頼により貴方方の近辺調査の依頼を承りました。依頼に関しましては懇意にさせていただいている興信所からの情報を基にさせていただいてます。」


「ふ…巫山戯るな!なんの権限があってそんな!プライバシーの侵害だぞ!」


「いえ、中岸さん、我々は探偵業法に基づいて対処しておりますのでその論法は通用いたしません、それでは貴方の所業に纏わる証拠の開示をさせていただきます。」


「あ……あぁあ…」



義父は青ざめていた。

それはそうだ、まさか弁護士を伴っていきなり祖父が押し掛けて来るなど予想すらしてなかったろうからな。

だから母と昼間から盛っていられたんだろう。



「まず息子さん、琢磨君に対する所業に関しては育児の放棄や虐待等が本人から確認されています、また妹さんである愛莉さんに関しては本人から青少年健全育成条例に抵触する行為が確認されており……」


「まっ待て!何処にそんな証拠があるんだ!?えぇ!?」


「……、ご存知ないのですか?」


「へ?」


「貴方方が愛莉さん及びお隣の夏芽明音さんと肉体関係にある動画がネットで拡散されています。」


「は…?はぁ……?そんな馬鹿な、そんなモノある訳が…」


「確認なさいますか?」



弁護士は慣れた手つきでタブレットを操作しある動画を義父に見せる…それを見た義父は目をひん剥く勢いで動画を凝視し頭を掻きむしって倒れ込んだ。 



「そんな…馬鹿な…馬鹿な…ありえない…どうして…どうして…?」


「この様に貴方の行為は未成年者との淫行にあたる行為であり、犯罪です。その様な人物に育児能力が認められる訳がなく今回立儀さんが親権を得るに足る理由となります。」


「あ……ぃ…あ」



まるで呆けた様に義父は座り込んで何事か呟いている。

心が動転しているのだろう。

哀れな物だ。



「はっ…はは…馬鹿な男…だから止めようって言ったのに…。琢磨…お母さんはこの男と離婚するわ!だからまた愛莉と3人で暮らしましょ?ね?」


「そんなつもりはないよ母さん…いや、宮河さん」


「はっ?何言ってるの…琢磨…?」


「俺は今更アンタを母親なんて思えないって言ったんだ…もうアンタに母親なんてやれると思わないしそんなモン望んでねーんだよ。」


「な…母親に向かって何なの!その口のきき方は!!」


「黙れよアバズレ!アンタみたいなクソが今更母親ヅラしてんじゃねーよ、今更母親ヅラ出来るその神経の図太さとか一周回って尊敬すらするよ!」


「なっ誰のお陰で!誰のお陰でぇ!!」


「あぁ、アンタのお陰で随分と酷い目に合わされた!幼馴染の元カノは寝盗られて義兄に眼の前でヒイヒイ言ってる所を見せつけられるわ、妹は義弟とイチャイチャネンネしてて気持ち悪いわ、挙げ句明音も交えて親子で酒池肉林の大乱交パーティーを数日スパンで見せつけられて俺の心はボロボロだよっ!!それもコレもアンタがこのクズと再婚してくれたお陰だ!ありがとうございましただわホント!!」


「ぐギぃ〜!琢磨ぁ!」



実母は琢磨に飛びかかろうとするが弁護士がすかさず割って入り実母を無力化する。

とても馴れてそうな動きだ。



「息子さん…あまり相手を挑発しないで下さい…それと奥さん、貴方にも多くの問題があります。大人、保護者の立場で有りながら子供達の行動を抑止すること無く淫行を勧め我が子だけに留まらず他人の子供にまでそれを促す行為、立派な犯罪です。」


「ちっ…ちが…私はこ…この男に嵌められて…」


「では何故警察に届け出なかったのですか?貴方の環境なら証拠などいくらでも用意出来たでしょう?」


「わっ…私は…そうだ…愛莉…ねぇ…愛莉助けてよ…ねぇ…愛莉!」


「………お母さん…愛莉に出来る事は何も無いよ、愛莉はこれからお寺に行くの…お寺でやり直すの…お母さんもやり直せばいいよ。」



やり直せばいい。

何処で?警察の独房のなかでか?

そんなの…嫌だ…でももう駄目だ…

どう見たって詰んでる

それが解ったからこそ実母は崩れ落ちソファに倒れかかった。





こうして中岸家は崩壊した。

親権は既に中岸から立儀へと移ったも同然、

俺は晴れて立儀姓を名乗る事が出来るのだ。


感慨深いものはあるが終わってしまうと呆気ないものだ。

大きな存在だったはずの義父はとても小さくちっぽけな存在に成り下がっていた。


一通りの書類に義父と実母からサインを貰い中岸家を俺達は後にした。

その後は警察の出番となるだろう。 


駅の前で弁護士は一礼して帰って行った。

そして祖父と愛莉も駅へと向う。



「お兄ちゃん…愛莉…お寺にいくよ…」


「……ああ」


「お寺で3年間頑張ったらまた愛莉を妹にしてくれる?」


「それは解らない、保証はしない」


「そっか…」


「寺でお前が昔の愛莉に戻れたなら考えてやってもいい」


「……私…頑張るよ…」


「……ふん…それじゃじいさん…俺帰るよ」


「ああ気を付けてな」


「じいさんも…」




そうして俺は家路に付いた。

秋菜さんが待つアパートに。

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