第22話 超神秘対策局:阿嶼所長の記録
※用語の意味や世界観の補足は、「第22話 補足:主な用語」をご覧ください。
私はロクな死に方をしないだろう。
私は小笠原沖に表向き、資源保安庁が所有する海上プラントの所長を任せれた。資源調査・採掘用のプラントとされている。実際は本局直轄で、目的は霊脈・神秘的エネルギープラントの稼働にある。海上という密室はプロジェクトの秘匿にはもってこいであり、実際、情報の漏洩は今まで発生していない。さらに言えば、プロジェクトそのものは、超神秘対策局局長と環境整備省上層部、一応大臣クラスくらいしか知らないだろう。本当か? そもそも、上層部はあまり重視してないだろう気がしている。でなければ、私が所長になど選ばれないだろう。
プラントの稼働や実験において、様々な触媒を用いた。神秘的エネルギーは、まだ未解明な部分が多い。超事調整委員会のNIMRAなんか、いまだに結果を出せてはいない。私たちはそのNIMRAを追い越さんと、様々な実験を行なっている。資源として妖怪、妖精や精霊、人間までも消費されていた。悪魔や天使と呼ばれる上位存在すら資源となった。とても取り扱いには注意が必要で、今までに一〇〇人近い損失を出している。もはや、宗教感にすら左右されない。神ですら重要な資源だった。
プラントでは様々な機械が唸りをあげている。“ゆりかご”と呼ばれる機械には人間が格納され、生体部品として扱われている。彼らに死は許されない。特殊な作業を施されている。交換期限は相当先になるだろう。“ゆりかご”が廃棄されるまで死ぬことはないのだ。
当然、そのようなことを行なっていれば、怪奇現象の一つや二つ発生する。そして、それすらも資源利用できてしまう。霊的収容装置は死後ですら拘束される恐ろしい機器だ。
これら全てはプラントを稼働させるあらゆる部品となる。特に演算装置は重要な機器だ。人間を直結させた装置はあらゆることを計算する。
この前、部下が与えられた自室で死を選んだ。配属されたばかりだったが、この惨状を目にし、心を痛めたのだろう。嘆願書を何度も提出してきたが、それら全ては却下した。彼の遺体は装置に組み込まれた。ただ、これも、ただの部品交換にすぎない。彼の霊魂は回収され、今や唸り声を上げる機械の一つとなった。ここでは、死は逃げ道ではないのだ。
私は自然と伊達眼鏡をかけるようになった。レンズを通して真実から目を背けたい心境からなのだろうか? 果たしてそれで神秘の真理に到達できるのだろうか? ここでの作業は無駄な資源の消費なのではないだろうか? 眼鏡を首から吊るす用の眼鏡チェーンが冷たく首に当たる。私は逃れられない運命なのだと、告げられているようだ。
「
そう言って彼女から手渡された資料を読む。混沌と化したプラントは、それでも確かに前進していた。前進の果てが、どこにつながるのかは誰も知らない。
「阿嶼所長、今度は妖怪が搬入されます。職員配置の指示をお願いします」
そう彼女から告げられた。前回は風の精霊だったが、そのときは運良く被害が少なかった。流石に切り裂かれた遺体は使い道が少なくて困ったと現場は言っていた。
「どんな妖怪か、リストはあるか?」
リストを見た限り、鬼、管狐、鎌鼬と、管狐はともかくとして、また扱いが面倒そうな妖怪たちがリストアップされていた。嫌な感じだ。過去、鬼を取り扱ったときは対応班が半壊したのを覚えている。これでも妖怪専門班だったはずなのに……と驚いた。奴らを甘く見てはいけない。その上鎌鼬とは……。手間がかかりそうだ。
「とりあえず、担当班に任せるしかない。連絡は私がするから、君はもう帰っていい」
自室に戻れば、またあの神経質そうな自分の表情を見る羽目になるだろう。少し痩せた自分だ。青年と評される年齢で所長を任されているストレスだろうか? 散髪に行く機会もあまりないから、髪も伸びただろう。身振りも気にしないから髪はボサボサだった。
「なんだ……これは……」
当然、秘匿された実験場でもある、当施設には様々な案件を持ち込まれる。知りたくもないことも知ることがある。同じく小笠原沖に日本の秘匿されたバックアップ施設が建造される予定らしい。当然秘匿案件だ。その施設には、クローニング装置や管理用のホムンクルスが運用されるらしく、その試験運用目的で、当施設の一部区画が使われるらしい。クローンとは、とても非人道的だ。だが、この施設内だと、それも薄味だ。それでも突然な連絡だった。
「いくらなんでも急すぎる」
所長室の椅子に腰掛けて、眼鏡を外しチェーンで首から吊るす。目頭を手で押さえ目を瞑る。浮かぶのはまだ希望を持って配属された頃の記憶だ。何度吐きそうになったことか、何度自分を責めたことか、思い出したくない出来事が多すぎる。
一度立ち上がり、コーヒーを入れて、席に戻る。チェーンに揺れる眼鏡が、ふと吊るされた男のカードを思い出させた。逆さに見えるのは、世界か、それとも——。
コップに一口つけ、チェーンによって首から吊るされた眼鏡をかけた。視界の向こうにあるクローン計画の書類は、やはり掠れて見える。
やはり、私はロクな終わり方を選べそうにない。
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