第6話 冷たい愛、暖かい光
「危ない!!」
京介とラムちゃんを襲うホブゴブリンの一撃に悲痛な叫びをあげたエリナであったが、彼女は犇めくゴブリンに道を阻まれフォローが出来ない。
「どきなさいよ!クイックスラッシュ!!」
エリナは素早い斬撃を数体に叩き込み、何とか近づこうを藻掻いている。しかし、物量の前にジリジリと二人から離されてしまっている。
(だめ、何とか早く二人を助けないと…)
「それなら!」
エリナは空いている左手を前に突き出し、ホブゴブリンに狙いを定め、
「バレット!!」
手から土の塊を勢いよく射出した。土塊の弾丸は相手の側頭部を掠めた程度で、こん棒の勢いを止めることは出来なかった。
「そんな!」
京介に迫り来るこん棒を彼は素早いサイドステップで身を躱す。エレナの援護のお陰で狙いが僅かには逸れていた。それでも力強い一撃は地面を砕き、瓦礫を周囲に飛散させた。石の礫が京介を襲うが、傍に居たラムちゃんが体を伸ばし直撃を防いでいた。
「くっ、ラムちゃん、大丈夫!?」
そんなラムちゃんを見た京介は、足元に転がった真新しい剣を拾い上げ、ホブゴブリンに切りかかる。
「よくも僕のラムちゃんを!」
『グギャ⁉』
油断していた相手からの手痛い仕返しに、困惑の色を見せつつ、後退する大鬼、『ギャウギャウ』と周囲のゴブリンに指示を出すかの如く、切りつけられた肩を押さえつつ体制を立て直す。
『ギャギャギャ』『ギャギャギャ』『ギャギャギャ』
数体のゴブリンが前に踊り出てくるが、シュン、シュン、ズザっと、ラムちゃんの鎌首が首を切り落とし頭を貫く。これにはホブゴブリンも他のゴブリンも青い顔をされに青くさせてしまう。一体、何と戦っているのかと。
「はぁーっ!」
そんな戦意喪失気味なゴブリンなど露も知らず、京介はラム剣を煌めかせ、ゴブリンを仕留めていく。元は先のゴブリンが使用していた錆びた‘なまくら’であったが、ラムちゃんの洗濯による修復を経て、新品の切れ味を取り戻した。
『グギャ』『ギャー』『グッ…』
「すごい…!本当に何なのあいつらは?」
京介とラムちゃんの戦闘にエリナは驚きを隠せない。ほとんど素っ裸の変態優男ではあるが、そこらの冒険者のようにゴブリンを切り伏せている。傍らのスライムも素早い一撃でゴブリンを屠っている。彼女も負けじと、
「ッ、一閃!!」
横なぎの一撃で数体をまとめて吹き飛ばし、何とかホブゴブリンまで辿り着いた。
「なかなかやるじゃないお二人さん」
「エリナ、無事か?」
「くっ、貴方に心配されるなんて。私は大丈夫よ。それより、あとはこいつだけよ。気を引き締めて。」
狭いとはいえ、あれだけ居たゴブリンは殆ど倒れ、周囲から集まっていた魔素も今やホブゴブリンの周囲に漂う程度。エリナはここが正念場と気合を入れる。
『グギャア!!』
優位な立場から劣勢に立たされた怪物は、意を決したように声を上げると、足元のゴブリンを拾い上げ、
ガブッ、グジュ、ガツ、ゴッキ…
大きな口で周囲のゴブリンを丸飲みしていく。そんな醜悪な様子に流石の二人も
「う、えッ、仲間を食って…」
「最悪ね、何てやつなの?」
一見無防備な食事風景であるが異様な様子に二人は動くことも出来ずただその晩餐が終わるのを見ていることしか出来なかった。そしてついに、
『グおーーーーーーー!!!!』
周囲の魔素を取り込みながら肥大したその体は身の丈3mは有ろうかという巨体に変化していた。
『人間め、ころす。』『食って、やる』『足りない』
拙いながらも言葉を喋ったそれは、京介とエリナを見て舌なめずりをしながらニタニタと笑みを零す。これから始まるデザートタイムを待ちわびつつ。
「ハイゴブリン⁉無理よ、こんなの相手に戦えないわ…」
目の前の敵の圧倒的な存在感に、エリナは恐慌状態一歩手前だ。京介も同じ用ではあるが、傍らにラムちゃんが居るお陰か、ほんわかと暖かい空気に包まれている。京介は剣を握りしめ、
「エリナ!しっかりしろ、ここでこいつをやらなきゃ、村に被害が及ぶんだぞ!」
京谷の激昂と共に暖かい空気に包まれるのを感じたエリナは、何とか恐慌状態から引き返し、冷静さを取り戻すのだった。
「そうね、ありがとう。ここで負けてはいられないわ」
そんな二人の様子を伺っていたラムちゃんは、二人に向けラム水をぶっ掛ける。
「え‼?あ、っちょ」「何なのよもう⁉」
びしょ濡れになった二人であったが、体が軽くなり、疲労が軽減したように思えた。戦闘で受けた切り傷も綺麗に治っている。
「おー!!ラム水にこんな効果があったなんて、僕らの愛の力がなす奇跡に違いない!!」
一方エリナは、
「私を貴方を一緒にしないでくれる?でもこんな回復があるなら、こいつだって何とか。京介、来るわよ!」
二人の回復を見ていたハイゴブリンはこれ以上回復はさせまいと、大剣で切り付けてくる。こん棒の比ではない重たい一撃が縦横無尽に迫り来る。一撃でも貰ったら最後、いくらラム水があれど、致命傷は避けられないだろう。
「くッ、こんなの迂闊に近づけないわ。それなら、バレッド‼」
土塊で牽制して見せるエリナ。しかし、大きな図体に、発達した筋肉を持つ奴にとって、その程度の攻撃は虫に刺される程度だろう。気にする様子もなく、狙いをエリナに変え、剣を振るってくる。
「くそ、エリナ、一旦下がれ!」
二人は間合いを取りつつ攻撃の隙を伺うが、暴れ回る怪物を前になかなかタイミングを見いだせない。
(くそ、何か、何かないか…。少しでもあいつの動きを止められたら…そうだ)
「ラムちゃん。………。行ける?」 (◎♬)
足元のラムちゃんに作戦を相談した京介に、ラムちゃんはプルプルと面白そうと返事をした様子だ。京介は、
「エリナ、目だ。あいつの目を狙え。」
「目ね、それなら少しは効果があるかもねロックブラスト!」
石の礫をハイゴブリンの顔面に直撃させたエリナであったが、
「駄目!全然聞いてない。」
わずかによろけさせ移動を制限した程度で、怪物はすぐに次の攻撃に移ろうと足を大きく踏み込んだのだった。しかし、
「掛かった!」
その瞬間足元が大きく窪み大きな巨体が地面に倒れこんだのだ。突然の転倒に加え、足元からラムちゃんが纏わりつき、その巨体を飲み込んだ端から消化しようとする。
『グガーーァ…!』
「たぁーーッ!」
悲痛な叫びをあげた怪物目掛け、京介は飛び掛かりながらその首を狙い剣を振りかざした。そんな一撃を何とか受けようと片手で大剣を振り上げるが、
「させないわよ、ロック、スピア!」
エリナの狙い定めた重たい一撃が振りかぶった怪物の腕を吹き飛ばす。重力に従い加速した京介の剣はハイゴブリンの首筋に吸い込まれ、
ザシュ!!!
重たい頭を図体から引きはがすのであった。
ズザーーーン......
力を失った巨体は大きな頭を残し、下の大穴に埋まっていく。そんな巨体を白く透明な幕がグニュグニュと覆っていき、最後にはゴクンと取り込んでしまった。肉も体液も黒い魔素も次第に溶けて、最後に残ったのは赤黒い小さな石ころだけであった。
「終わった?はー、何とかなって本当に良かった~もうだめかと思ったよ~」
へにゃへにゃ~と力なく座り込む京介をみて、
「何を言ってるのよ、一番おいしい所を持って行ったくせに。」
止めを刺したはずのだらしない京介を見てエリナは額を押さえる。
(ちょっと惚れ直しちゃう所だったわ。危ない危ない、こいつはスライム偏愛者なのよ。こんなヤバい奴、絶対にヤバいだから!!)
止めを刺した姿をみて危うく道を踏み外すところを、寸でで引き返しいエリナであった。そんなエリナを見上げ、
「エリナも最後のあれ、最高に格好良かったよ。どうして戦闘中は出さなかったの?あの重そうな一撃ならもう少しダメージが入ったんじゃない?」
「ああ、ロックスピアは速さに問題があって、十分に狙わないとダメなのよ。ここぞって時の必殺技みたいなものね。それよりもほら、手を貸して」
座り込む京介に手を差し伸べるエリナ、銀髪に褐色の綺麗な笑顔で見つめられ、京介は戸惑いながらも、その手を取り立ち上がる。
「ほら、戦利品を見に行きましょう。」
「あ、うん…。」
エリナに手を引かれ、少し恥ずかしさを感じる京介であったが、ラムちゃんとは違った暖かな感触を感じつつ、食事がすんで、デサートのゴブリンを消化しているラムちゃんの元へと二人で歩みを進めるのであった。
〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
続きはまた明日。
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