第7話 祝☆パーティ
ぺッ、ぺッ、ぺッ、ぺッ、ぺッ、ぺッ・・・
ゴロンゴロンと大量に吐き出されたそれらを見て、エリナは震えた。さらに、あれだけの数で襲ってきたゴブリン達が今や白く透明な膜に覆われ、片っ端から溶けては消えているのだ。不要とばかりにゴブリン達の装飾品は地面に吐き出され、一山築いている。
「しかも、ほとんど新品になっているわね。こんなの二人じゃ運び切れないわよ⁉」
普通は殆どが錆びて使えないガラクタを落とすゴブリンであったが、このスライムに掛かれば、新品のような鋭さを保っている。エリナが嬉しい悲鳴をあげるなか、そのスライムの豊満な姿を見ていた京介は、
「はぁ~ぁん、僕もそんな風にラムちゃんに包まれて溶かされた~い。ラ~ムちゃ~ん、僕も混ぜて~」
大きなプルプルに抱きつき、愛おしそうに頬ずりをしては、今にも自ら取り込まれてしまうほどであった。そんな風に密着しラムちゃんの体の中を覗き込んでいた京介であったが、その中に一際目の引く、赤黒い小さな石を見つけ、
「エリナ、ちょっといい?この赤い石って何だか分かる?こんなのゴブリンを吸収したときは見たことなかったんだけど。」
「赤い石?あ、それは多分魔石ね。上位の魔物になると、体内に核となる魔石が生じることがあるらしいわ。村の近くではそんな魔石を持つ魔物なんか居ないけど、村に来た冒険者に見せて貰ったことがある程度よ。」
…魔石、魔素から生まれた魔物の中で、魔素が凝縮し核となる。大量に魔素を吸収した魔物はその量に応じて相応の進化を遂げる。魔石は安定した魔素であり、ラムちゃんにとっては、
ぺっ!!!
ゴチーン!「あだッ!?」
勢いよく吐き出された魔石は京介の額にクリーンヒットし、彼はラムちゃんの体から弾き飛ばされた。頑丈な魔石から魔素を得るよりも、質より量で、空腹を満たすかの如く消化活動を続けるラムちゃんであった。
プキュプキュ♡
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「やっぱり魔素の濃度が異常に濃かったんだわ。だから、あんなに多くのゴブリンや、ホブゴブリンが生まれたのね。でも一体どうして?ここは普段から魔素が溜まり難いはずなのに…」
京介の額に突き刺さった魔石を観察しつつ、エリナは今回の氾濫の原因を考えていた。そして、泉の様子を見てあることに気が付いた。ここは元々洞窟の泉から村の近くの川へ合流する水源の一つであったが、
「水の流れが堰き止められてる。これじゃほとんど流れ出てないわね。普段よりも洞窟がジメジメと、湿っぽかったのもこの為ね。」
地盤沈下や落石の影響か、泉からの水の流れは大きな岩でほとんどが堰き止められ、洞窟内に溢れている。幸い、地面が脆い性か、洞窟全体を満たすことは無かったが、堰き止められた水の流れは、同じく流れ込む魔素を洞窟内に留めるに至った。
「あの大岩を退けてやれば、問題は解決ね。ロックスピア!」
バザーーーン......
エリナ必殺の一撃が大岩を砕き、瓦礫が水流に飲まれていく。淀んでいた流れが洞窟の外に向け動き出し、内部に立ち込めたカビ臭さも和らいでくる。
「これで一見落着ね。さてと、そこ!いつまで伸びてるの、それにラムちゃんもいい加減に速く消化しなさい。早く村に帰って美味しいご飯でも食べましょ?」
恍惚とした表情で伸びていた京介であったが、エリナの声は彼の耳を通り抜け、腹に響いた。
「飯~!!!?いくいくいく~、すぐに行こう!!!やッひゃほーぅ、飯だってよラムちゃん!!!」
プルぅ~...(やれやれっといった感じに鎌首を左右に揺らしながら京介のあとを付いていくラムちゃん)
大量の成果を抱きかかえズンズン進むエリナを京介と共に、洞窟をあとにするのであった。
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「「かんぱーい!!」」 プル~~♬
「わー、うめー」 ガブガブ、ごくごく、ガチャガチャ、はむはむ。
「そんなに焦って食べなくても、一杯あるわよ。」
「ほんなこと、いっふぁって、こっちふぁまうふふふぁ」
「もう、食べるか、喋るかにして…、丸二日食べてないの?」
ぶん↑↓ぶん↑↓ぶん↑↓ぶん↑↓
「分かったわ、でも、戦利品のお陰でお財布も潤ったし、ゆっくり食べなさい。ここはお姉さんが奢ってあげるわ。それにしても、お金も持ってないなんて、貴方達どうやって暮らしてきたの?それに、ちきゅう?がどうとか、転生?したとか何とか?」
エリナに戦利品のほとんどを接収され一文無しの京介であったが、今回の調査のお礼ということで、飯屋の一室でテーブル一杯の食事をしている。そんな京介達であったがエリナは洞窟での出来事を思い出し、
「貴方は何者なの?それにその白いスライムは何?なんでそんな魔物と一緒なの?」
「えーっと、これには、深い訳が…ねぇラムちゃん?」
エリナに確信に迫られ、どうしようかとオドオドと焦っていると、急にラムちゃんがエリナに覆い被さり、体内に取り込んでしまう。
(ガポガポガボ…) ボン!ボン!
一瞬の出来事でエリナも京介も全く反応出来なかったが、驚き内側から、出せと拳を叩きつける必死なエリナをギューッと締め上げ、大人しくさせると。淡い光が点滅し数秒、ペッ、ドサッ…と床にエリナを吐き出し、何事もなかったかのように京介の隣に戻ってくるラムちゃん。
「ラムちゃん何したの⁉エリナ、大丈夫⁉」
駆け寄りエリナを抱き起した京介は、彼女が生きていることを確認すると、
「もー、何してるのさ。食べて証拠隠滅、死体亡き怪事件、名探偵もお手上げになる所だったじゃないか」と、ぶう垂れた。
「うーん」
「エリナ?良かった、目が覚めたんだね?」
「あ、京介さん。それにラムちゃんも。二人ともどうしたの?早くご飯食べちゃいましょう?」
「京介、さん?エ、エリナ?一体どうしちゃったの?」
「何言ってるんです?私は何ともなってませんよ?あの洞窟でホブゴブリンに捕まっている所をお二人に助けてもらったじゃ無いですか?」
「え?あ~、そ、そうだったね。い、いやー、あの時はあぶなかったなー。ねえ、ラムちゃん?!」
プルプルプルん
(何?何?何?ラムちゃん?あの子どうしちゃったの?まさか、記憶を消しちゃった?それとも良い様に書き換えた?ちょっと、誰か教えて~)
ラムちゃんのお陰で?京介達の都合の悪いことはさっぱり忘れ、記憶を改変された様子のエリナは、京介の口に、特大の肉を放り込みながら、二人の間に溶け込んだ様子であった。
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「京介さんこれからどうするんですか?」
窮地を乗り越え、飯屋を後にした二人と少女は村の仮設ギルドで今後の予定を立てていた。ハイゴブリンの魔石と頭を討伐の証明に預けていたのだ。
「うーん、特に予定は無いんだよな。ねえ、ラムちゃん?」
「それなら、暫く私とパーティを組みませんか?あれほど戦えるお二人ならこの辺の魔物でも問題ないでしょうけど、この先、強い魔物と出会う機会もあるでしょうし、私で良ければどうです?それとも、ゴブリンにやられる私なんか、足手まといでしょうか…グスン」
(確かに、エリナが居てくれれば、この世界の事も分かるだろうし、そもそも目的も無いわけだし。こんなゲームみたいな世界がどんなにものか興味はあるな、ムムム…)
考え込む京介を今にも泣きだしそうなうるうるした瞳で見つめるエリナ、そんさエリナの様子を伺っていた人物が、
「うちのエリナを泣かすとはいい度胸だね。あんた!ここらじゃ見ない顔だけど、あんた見たいな優男が、エリナを泣かすんじゃないよ!!」
「あ、嫌、俺はそんなつもりじゃ…」
「アタイはサラ、このライラ村仮設ギルドのギルド長だよ。どこの馬の骨かも分からない奴にエリナを泣かす資格は無いんだよ。」
「あ、サラさん!、違うんです、私が勝手に。そもそも、今回の調査は京介さんの活躍もあって解決したんです。ただの優男じゃないんですよ!」
「な。こいつが?あのハイゴブリンをやったってのかい?それに、変なスライムもいる様だし。こいつ本当に人間なのかい?」
「もー、サラさんてっば。私の事になるとお母さんみたいに」
「そりゃそうさ、アタイはあんたのことをあんたの両親から頼まれてるんだ。あんたは私の家族見たいなもんさ。それに、まだ幼いあんたのオシメを替えてやったのだって…」
「もー、そんな昔のことは良いですから。」
「ハイハイ、そうだ、そんな事よりも、調査結果の報告書良く出来てたよ。あの洞窟は定期的に見回る必要がありそうだね。残りの買い取りも終わったみたいだし、受付に行ってきな。」
そういうと、サラは手を振りながら執務室に帰っていくのであった。
「もー、それだけ言えばいいじゃないですか。ゴホン、で、どうします?私とパーティ組んでみませんか?」
〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
続きはまた明日。
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