第32話 異次元の力


 トマトに羽が生えており、加えて飛んでいる......。


 そんなおとぎ話の中でも聞かないような非現実的な光景。

 あまりにも異質。あの物体の周りだけ違う世界に繋がっているんじゃないかと錯覚するほどの現象だ。 

 一瞬、夢かとも思ったが、意識はハッキリとしている。


 俺は驚きのあまり地面に座り込んで、指を差して尋ねた。


「へ、へ、ヘルテさん!? あ、あれって......」


 俺はガクガクと顎が震えて、正確に言葉を発音できない。

 するとヘルテは空飛ぶトマトを見ながら、静かに頷いた。


「あ、うん。多分、私だ......」


 そうして未だにフワフワと白い羽を羽ばたかせて飛んでいるトマト。

 そんな物を見ているとだんだんと冷静になってきて、再度ヘルテに尋ねた。


「ヘルテさん。もしかして、『羽の生えたトマト』を頭の中に思い浮かべました?」

「あっ......。確かに、想像したけど、呪文は唱えて無いよ?」

「つまりは、魔法を使っている感覚はあると?」

「うん。あれは『創世???』の効果だと、思う......」


 俺は少し考えると、やがて一つの仮説が思い浮かんだ。


「恐らく、ヘルテさんは無意識で無詠唱魔法を発動したのだと考えられます......」


 思い返してみると、俺も無詠唱魔法を覚えたての頃に一度だけ無意識に魔法を暴発させたことがある。

 しかし俺は初級魔法だったが、ヘルテは未知の魔法を練習無しで無詠唱したのだ。

 

 ヘルテの持つ才能に感動していると、彼女は少し俯いて反省している様子だった。


「そっか。気を付けなきゃダメだった......。ごめんなさい......」


 羽が消えて、グチャリと音を立てながら地面に落ちるトマト。


 俺は慌てて彼女に駆け寄り、声をかけた。


「謝らないで下さい。今回のは事故みたいなものです。暴発したり、暴走させない為の練習なんですから。これから順番に身に着けていきましょう」

「......うん!」


 そうしてすぐに立ち直ってくれたヘルテ。

 

 俺達はすぐに練習を再開した。


「では先程と同じようにトマトに翼を付けることはできますか? 今度は飛ばせるのは無しで」


 俺が言うと、ヘルテは優しく頷いて魔法を唱える。


創世???


 そうして羽の生えたトマトは動かぬまま地面に転がっている。

 俺はトマトを手に取ると、確認の為にヘルテさんに見せる。


「とりあえず、このトマトを割ってみます」

「解剖、するの......?」

「どのような構造になっているのか把握したいので。身体に少しでも異常を感じたり、魔力消費が多くなったら言って下さいね。すぐに止めますから」

「分かった」


 白い羽に触ると、少しくすぐったい感覚が指先を撫でる。

 俺はあまり生物に詳しい訳では無いから、鳥の羽という事しか分からない......。


 そして羽の根元に恐る恐る爪を立てていく。

 一応彼女の方を見るが、ヘルテの様子はおかしくなったりしていない。


 多分、彼女が影響を与えている物体に傷をつけても、彼女自身は傷つかないのだろう。

 俺は少し安心しながら観察を続けた。


 指でトマトを開いて中身を見ていくが、普通のトマトだ。

 

 羽は完全にトマトの皮と同化しているが、中身には侵食していない。

 トマトの皮と絡み合っているいう感じでも無いし、一体どうなってるんだこれは......?


 とりあえずこれ以上俺が見ても発見は無さそうなので、観察は止めることにした。


 ――回輪癒合ルビジェネレイド


 トマトを完全治癒魔法で回復させて傷跡を塞ぐと、俺はヘルテに向かって口を開いた。


「申し訳無いんですが、先程のように飛ばしてもらえますか? 後、トマトに角や尻尾も付けてみて下さい」

「角や尻尾......?」


 不思議そうに首を傾げているヘルテに、俺は首肯した。


「はい。どんな形状のものでも構いません。やってみて下さい」


 すると、再び空中を飛ぶトマト。

 そしてその赤い肌にねじれた角が一本と、スラリと飛びた尻尾が出現した。


「次は花や人形、椅子や机も、それと宝石や指輪もお願いします」


 俺がそう言うと、ヘルテは静かにトマトに視線を向ける。


 ――そして、俺が言った通りの物がトマトから出現する。

 

 茎も含めた色鮮やかな花が数本と、一つの土で作られた人形。

 トマトの大きさに合わない、人がちゃんと使えるような椅子と机。

 加えて、何の鉱石か分からないが高価そうな宝石と、それがあしらわれた指輪。

 

 そんな風に様々な物体がトマトから生えており、空を飛んでいる。


「なるほど。ヘルテさん、消して下さい......」


 言うと、トマトに先程まで生えていた物は塵一つ残さず消えて、トマトは落下する。

 そうして俺は、落ちてくる素のトマトを潰さないように掴んだ。

 

 彼女はそんな俺の元に歩いてきて、疑問を口にした。


「ご主人? 何か分かったの......?」

「はい。ヘルテさん。落ち着いて聞いて下さいね」

「うん」


 真剣な面持ちで語りかけると、彼女もまたひたむきな表情で向き合ってくれた。


「恐らくですが、その魔法は想像出来るならば何でも出来る魔法......」


 俺は続ける。


「つまりは――『思い描いたものを現実にする魔法』という事です」


 と、俺は一つの仮説を白髪の少女に話した。

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