第31話 試金石


 成功した。ついに、ヘルテが魔法を発動する事が出来たのだ。


「凄いじゃないですか! ヘルテさん!」


 そうして近寄りながら、彼女の魔力残量を確かめる。

 すると、残っているのは9割以上。

 彼女の総魔力量からすると、先程の魔法で使ったのはごく少量というわけだ。


 心の中でホッとしていると、頬を赤らめたヘルテが少し口を尖らせながら、恥ずかしがっていた。


「うん......。でもまだ、使えたの一回だけだし......」


 そんなヘルテの頭を撫でながら俺は言う。


「それでも、全く分からなかった時と比べれば大きな進歩です。この数日間、本当によく頑張りましたね......」

「べ、別に頑張ってはいない......」

「でしたら、もっと凄いです。ヘルテさんは本当に才能に満ちあふれていますね......!」


 頭の中に浮かんだ言葉をそのまま口から出力すると、少女は口の端を緩ませながら小さく頷いた。


「う、うん......」


 はっ......。いかんいかん。

 我を忘れて心のままに褒め称えてしまった。

 別にそれが悪いことだとは思わないが、締める所はちゃんと締めねば。


 そうして俺はわざとらしく「コホン」と咳を出して、


「ですが、その魔法はまだ全貌が明らかになっていません。ひとまずは俺の前以外では使わないでください」

「分かった......!」


 元気の良い返事を聞いて空を見上げると、時刻は昼過ぎだった。


「では、夕食までまだ時間がありますし、もう少しだけ魔法の練習をしましょうか」

「うん......!」


 そうして俺達は再び、グランドヴェルデの大地で練習を始めた。


「ヘルテさん、先程のように空に鞭を出現させてみて下さい」

創世???


 彼女が唱えるのと同時に空中に現れた黒い鞭。

 今度はすぐには消えずに、空中で制止している。


「またできた......!」

「では、それを振り回すことはできますか?」


 俺が聞くと、彼女はすぐに頷いた。

 巨大な鞭が空中で高速でしなり、凄まじい風切音が辺りに響く。


「ありがとうございます。では一旦それは無くしていただいて......」

「いいの?」

「はい。他の事も試してみたいのでお願いします」


 すると、少し残念そうに鞭を消したヘルテ。

 申し訳無い気持ちになったが、魔法の把握は早ければ早いほど良い。


 俺は続けて、彼女に試して欲しい事を伝えた。


「ついさっき挑戦したのと同じく、この岩を持ち上げてみて下さい」

創世???


 俺が作り上げた拳大の岩。それはすんなりと持ち上がり、地面から少し間を開けてピタリとも動かない。


 なるほど。やはり持ち上げる事も出来るのか......。

 もしかして、ヘルテの力は......。いや、まさかな......。


 何にせよ色々と試してみないと、分かるものも分からない。


「では、その岩を変形させることは出来ますか? 例えば平たくしたり」

「やってみる......」


 ヘルテが少し念じると先程まで自然な形をしていた岩が、人工的な平らな岩になった。


「で、では今度は四角に......」


「今度は三角」


「今度は球状の形に......」


 そうしてどんな形であっても、いとも簡単にグネグネと変形していく岩。

 ヘルテは涼しい顔をして岩を動かしており、今ので減った魔力はごく少量だった。


「なるほど......。ならその岩を四等分に分けることはできますか......?」


 すると一つの丸い岩が同じ大きさで等分され、目の前には四つの小さな岩がキレイに空中に並んでいる。


「次は16個......。その次は64個に」


 俺の言葉を聞いたヘルテは少し手を動かした。

 すると、ちょうど16個の丸い岩に分けられて、次は64個の小さな丸い岩に分けられた。


 分割も出来るのか......。しかも同じ形のまま......。


「逆に岩を大きくしてみたり、小さくしてみたりして下さい」


 すると、見上げるような岩の大きさになったかと思えば、だんだんと萎んでいき、米粒のように小さくなった岩。

 

 つまりは物体を増やすことも、逆に減らすことも可能......。


「な、なるほど......。では、次はコレを......」


 俺は魔法で冷蔵庫から一つの野菜を取り出し、手元に引き寄せた。

 そうして、その真っ赤な野菜を一玉ヘルテに見せる。


「これってトマト?」

「はい。そうです。今度は岩ではなく、比較的構造が複雑な野菜で試してみましょう」


 そうしてトマトも、岩と同じようにやってもらったが、移動、変形、分割、増殖、どれも過不足無く完璧に出来ていた。

 

 ――これは明らかに、既存の魔法の域を遥かに超えている。

 

 普通の魔法は魔力を用いてある現象を発生させ、その現象で他の物体に干渉する。

 例えば風魔法で岩を切り、水魔法で岩を濡らすといったように。


 しかしヘルテのそれは、もはや物体そのものを掌握と言っても過言ではない。


 加えて底が見えないと来た。さて、どうしたものだろうか......。


 まぁ極論を言ってしまえば、この魔法がどんなモノであろうとヘルテが自分の身を絶対に滅ぼすことが無い程度にコントロール出来ていれば問題はない。


 そんな事を考えながらも、その後も少し彼女の魔法を試した。



◇◆◇



 ――そして、それは何気ない俺の一言が原因だった。


 休憩中、遥か上空を飛ぶ龍と綺麗なトマトが視界に入り、一つの豆知識を思い出した。

 俺は雑談をするつもりで、何の考えも無しにそれを伝えた。


「そう言えば、ここより遥か南の国では身体が丸い種の赤龍が生息していて、そこでは『羽の生えたトマト』と言われているそうなんです。俺もまだ行ったことは無いんですが......」

「わぁ......! 私もいつか見てみたいなぁ......」


 そんな風に目を輝かしているヘルテを温かく見守っていると、視界の端に違和感を覚えた。

 俺は嫌な予感がしながら、恐る恐るその物体に焦点を合わせると......。


 ――トマトに羽が生えていた。

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