シンギュラリティ・シャドウズ

銀親偽他

― プロローグ ―

 朝焼けが、空間の端に浮かんでいた。

 ピクセルにも光にも似た粒子が、ゆっくりと街を染めていく。


 この都市では、朝はすでに日課になっていない。

 誰も「おはよう」と言わず、ただ目覚めた場所から“その人らしい動き”が始まる。

 そういうものだと、みんな知っている。

 ――ここが現実かどうかなんて、もう問題じゃないのだから。


 川辺のスペースに、ひとりの影が立っていた。

 もうひとつの影が、少し遅れて歩いてくる。


 「遅いぞ、シン。今日の空、綺麗だぞ」

 「また始めるのか? 空の記録。」

 「違うよ。今日のこれは“保存”じゃなくて、記憶さ」

 「どこが違うんだよ、それ」

 「さぁな。でも、ちゃんと見ておきたい朝があるんだ。」


 ふたりはよく似ていた。

 話す声も、立ち姿も、まるで最初から並ぶことを前提に作られていたかのように。

 どちらが先で、どちらが後か――そんなことは誰にも分からない。

 それぞれが、それぞれの目線で、同じ風景を見ていた。


 ただ、その日の朝だけは、少しだけ違った。

 空はいつもより透き通っていたし、風の音は少し遅れて聞こえた。

 そして、笑い声の奥に、ほんのわずかな「揺れ」があった。


 ――終わりが、どこかで始まっている。

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