第34話 アナザーストーリー③

ともかは、ありがとうございましたと言ってブースを出て行った。頭こそ下げているけれど、


お前じゃ話なんねぇな。


ともかはそんなことを言う子ではないけれど、そう言われたような気がした。


実際そうだろうな。だって私は様子を見ろって言っただけだから。


でも、一体私に何ができる?

授業中に起こし続けることならできる。

そんなの、お安いよ。

仕事してるふうにも見えるしさ。


ただ彼女を起こし続けることで、

授業の進行は、確実に妨げられるだろう。


こちらは、1年かけて教科書の内容を教えなくてはいけないのだ。もしやり残しがあったら、去年の担当は何をやっていたんだと、


職員会議の場でボコボコに叩かれてガン詰されるのが目に浮かぶ。


それに、人間の本能には抗えない。眠い時は眠いのだ。何をしても。自分の意思で、起きようと決めない限り起きられないのだ。


人間は、自分が寝ようと思ってしまっているときは、誰に起こされても、また寝る。

起きようと決めていたら、どんなに眠くても我慢することができる。

人間はそういう生き物だ。


だから、高校生位ならば、確実に放置でいい。

自分の責任だ。

ただこの子たちは小学生だ。

そこが厄介、いや、難しいところだ。


でも、チャットって男女じゃなければ、そんなに長くは続かないと思うんだよね。

…もしかして?男?

…なりすまし?



一瞬つばさの脳裏に疑いがよぎったが、打ち消した。一教師には何もできない。

下手に疑って訴えられても困る。


親に連絡も一瞬考えたけれど、あそこの親は、なんというか、適当なんだよな。

3者面談の日程もまだ出てないしなぁ。


3者面談の日程を促しながら、連絡してみるかあ。

あそこ夜じゃないと電話出ないんだよなぁ。

しょうがないなぁ。

この話をしながら促すか。

どうせ出ないな。折り返してもらうか…


個人の連絡先は、絶対知らせられない。

そんなことしたら、電話が鳴り止まなくなる。


自分の携帯の番号をうっかり保護者に教えて、

結果的に1日中電話対応に追われている教員を何人も知っている。


1人に教えたら、全員に伝わる。

そう思って間違いない。


それを避けるには、学校で待機するしかない。

あー。また今日も帰れない。


つばさは、大きなため息をついた。

他の教員たちは、つばさのため息に構う事なく、淡々と自分の仕事をしている。


皆同じなのだ。他人のため息をかまってはいられない位、どの教員も仕事を抱え込んでいるのだ。


子供たちは、多分、先生たちは、子供が帰ったら、もう仕事が終わりだと思っているだろう。でも違うのだ。


子供が帰ってからも、仕事なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る