第3話 図書館①



「はぁぁ…………」


 私は学園の図書館の隅で溜息を吐く。昼休みの時間ということもあり、人が少なくないのが救いである。本来ならば、図書館は自習の為に使用するのだが、今は逃げる為にこの場に居るのだ。

 図書館で隠れている原因は、先日行われた婚約破棄である。何故か翌日、学園に登校すると皆、私が婚約破棄をされたことを知っていた。誰かの目がある場所で、婚約破棄が行われた訳でもない。一方的に婚約破棄された。

 しかし学園の生徒たちは、私がフェレッタ侯爵子息から婚約破棄をされたこと知っていたのだ。誰かが意図的に噂話を流した可能性がある。


「物好きというか……暇な方よね……」


 何の意図があって、私の婚約破棄に関して噂を流したのかは分からない。少なくとも、私への悪意があるのは確かである。学園では貴族社会にデビューする前の練習をする場である。貴族社会の縮図とも言えるのだ。

 加えて、爵位の低い者たちは卒業後にどの派閥に付くのか考えなければならないのだ。令嬢ならば良い条件の結婚相手を見付け、婚約をすること。子息ならば爵位の高い令息と縁を結び、良い条件の令嬢と婚約をすることが目的である。それ故に学園は娯楽が少ない。婚約破棄などという醜聞は格好の話題になるだろう。


 人の不幸は蜜の味とは良く言ったものだ。


「お父様たちの言う通り、サボってしまえば良かったかしら……」


 婚約破棄をされてから、両親からは学園を休んでは如何かと言われていた。一枚の紙で始まり終わった元婚約者、何も思うことはない。フェレッタ侯爵子息からの『プレゼント』という名の『ゴミ』も処分し終えた。しかし家に引きこもっていても、良くないと思い学園に登校した。その結果が、悪い噂の的だ。


「はぁぁ……」


 再び溜息を吐く。早退でもしてしまおうかと頭の隅で考える。本来ならば、次の婚約者を探すなどしなければならない。しかしもう、男は懲り懲りである。実家には悪いが、お嫁には行かないかもしれない。


「何か……借りていきましょう」


 噂が落ち着くまで、学園を休むことにする。その期間は自由に過ごそうと思う。今までは読書をする時間もなく、愚かな元婚約者に気に入られようと努力をしていた。しかしもうその呪縛はない。私は自由である。休みの間に本を借りて読もう。


「何がいいかしら?」


 椅子から立ち上がると、本棚を眺めながらゆっくりと歩く。

 

 自分の為に時間を使うことが出来るのは、本当に久しぶりである。


「魔法道具……」


 棚を眺めていると、棚の一番上の段に気になるタイトルの本を見付けた。この世界で魔法を使用する際には、魔法道具を媒介に魔法を使用している。生活には欠かせないのが魔法道具だ。常に生活と共にある魔法道具である。

 日頃は何気なく使用している魔法道具だが、私は婚約破棄をされた。学園を卒業しても優しい両親ならば、実家にいることを許してくれるだろう。しかし何もせずに実家に暮らすことは、心苦しい。何か力になれることを探さなくてはならない。先ずは知識を得ることが必要だろう。


 私はその本を取ろう、梯子に登った。


「……えっ……」


 棚の一番上に手が届くと思った瞬間、梯子が大きく揺れ。


 そして私は梯子から宙へと放り出された。

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