異世界ダンジョンでRTA
ユウリ
第1話 プロローグ
大幅に加筆修正をする恐れがあります。予めご了承ください。
◇◇◇
RTAとはリアルタイムアタック(Real Time Attack)の略で、ゲームのプレイスタイルの一種である。
たとえば、あなたがRPG(ロールプレイングゲーム)で五十Gと安物の剣と鎧を王様から託されたとしよう。
おそらくあなたは、王様のくせにしけてんなーと言いつつもその剣と鎧を装備して冒険に出かけ、付近の雑魚モンスターを倒し始めるだろう。
これはそんな当たり前のことをしないRTA世界記録を持つ男一条海斗の物語である。
◇
「カイトー今どのへん?」
ヘッドセットから聞こえる間延びした音声に、俺は意地悪く答える。
「……内緒」
「なんだよ内緒って……いいから教えろよ」
「そうだそうだ」
「世界持ってるわりに、その態度はどうなんでしょうかね? カイトさん」
同時に音声通話をしているメンバーからも追撃を受け、俺は仕方なく現在の状況を白状する。
「ミラス南のダンジョンをクリアしたとこ」
「んーカイトにしては微妙?」
「おい、それって俺よりも遅れてるぞ?」
「お前の持ってる世界記録より十分以上も遅いじゃないか。やり直せば? リセットして、どうぞ」
好き勝手言いやがって……。
「並走大会なんだからやり直せるわけないだろ! リセットにしたってセーブしたの何分前だと思ってんだ!! そもそもリセットしたら遅れるだけだろ!!」
今、俺がやっているのはRTA。
簡単に言うと、ゲームをいかに速く攻略するかを競う競技、といった感じか。
現在は大会の真っ最中で、名作RPGのナンバリングタイトルを順番に攻略していくというルールでプレイしている。今プレイ中なのは最後のタイトルで、これに勝利すれば俺の全タイトルを制しての完全優勝が決まる。
しかし、俺が致命的に遅れたとみるや、これで完全優勝の芽がなくなったと、皆の興味は他のところへ移ったようだ。本命が消えた今、誰が優勝するのかを予想しあっている。
俺のここまでのタイムは一般的なRTA走者から見てもごくごく平凡なものだ。
つまり、このゲームの世界記録を持っている俺からすれば、このタイムはとても遅いということになる。
だが実は、俺は今回のプレイでミスは全くと言っていいほどしていなかった……。
音声で話している連中は全員同じ大会を並走している。つまり俺が今何をしているか、確認する暇はないということだ。自分のプレイで手一杯だろうからな。
俺が世界記録を出した時のチャート――プレイヤーの行動手順を示したもの――は公開されているが、それではミラス南のダンジョンをクリアした後はしばらくレベリングの時間になる。世界記録のチャートということもあり、俺のチャートは一般的によく参考にされている。
中には独自のチャートを用意している者や、俺の作成したチャートに多少の変更を加えて使っている者がいるが、総じてこの時間帯でレベリングに入るチャートが圧倒的に多い。
しかし、今回俺は、自分が記録を出した時
のチャートには従わず、レベリングをせずにストーリをどんどん進めていった。
その理由は――既にラスボスを倒せるレベルまで上げ終わっているからだ。
俺は、今回のRTA大会で新チャートを試すことに決めていた。
劇的にレベリング時間を短縮するチャートを思いつき、テストを開始したのは大会本番の数日前だった。
大会で世界記録を出した方が盛り上がるだろうという打算もあり、黙々と練習を積んでいたというわけだ。同時に新チャートのお披露目にもなるからな。
俺は、適度に緊張感を持ちつつ、ミスをしないように進めて行く。
物語は既に後半、最後の戦いまでもう少し
のところまで来ている。
他の参加者がレベリングしている間に、俺は彼らを抜き去っており、圧倒的にトップに立っている。
新チャートだから速いのは当然としても、今日の俺はいまだにほぼノーミス、そして運にも恵まれている。
これは……すごい記録が出るぞ。
テストランのどの記録よりも数段速くなりそうだ。
内心の興奮を隠せないが、RTAは冷静さが重要だ。必死に気持ちを落ち着ける。
……着いた。ラスボスだ。
時間を確認すると、自分の持つ世界記録を三十分以上も上回っている超ハイペースだ。
ボス撃破の時間を五分と考えても……。
俺は思わず生唾を飲み込む。
とにかく皆の度肝を抜く記録になるのは間
違いない。
俺自身、今後自分の記録を抜けるのか、いまいち確信が持てない。
不意に声が響く。
「よし! レベリング完了。もう少しでラスボス突入だぜ。カイトがこけたみたいだからな。優勝はもらうぞ?」
すでにラスボスとの戦闘に突入している俺としては、一言突っ込みを入れてやるべきか悩んだが、プレイに集中したいことも手伝って、黙っていることにした。
黙々とプレイを続け、ボスのHPを削っていく。
極端に悪い乱数を引いてダメージが低くなったり、こちらの攻撃を避けられたりしなければ、次のターンで終わる……。
結果的に俺の心配は杞憂に終わる。
乱数は偏ることなく、そしてすべての攻撃がヒットする。
「よっしゃー!! クリア!!」
俺は喜びを爆発させ、叫ぶ。
しかし、俺の記憶はこの瞬間で途切れてしまったのだった……。
◇
「……い」
ん……なんだ?
「おい」
誰かの声が耳に届く、続けて体が揺すられる感覚。
「え……なんだ?」
寝ぼけ眼で声の主を確認する。
えっ……誰?
目の前に中年の男性がいた。もちろん知り合いではない。
なんで知らないおっさんが俺の部屋に?
あれ? そもそもここ、俺の部屋じゃない。
そこは室内ですらなかった。周囲には草木が生い茂り、舗装された道も見える。
「ようやく気づいたか、お前さんこんなところでなにやってるんだ?」
俺に声をかけているのは明らかだ。なにか言わないと……。混乱しつつも話してみる。
「ここは……?」
口から出た言葉は相手の質問を無視していたが、とにかくまず知りたかった。
いや、そもそもどう見てもこのおっさん日本人じゃない。言葉が理解できるとは思えない。いや……まて、俺の方は言葉が理解できたぞ?
俺の考えは杞憂だったらしく、おっさんは疑問に答えてくれる。
「ここか? ここはミルから少し離れたところだが」
ミル? 地名か?
生憎とうちの近所にそんな場所は存在しない。試しに俺が住んでいる地名を言ってみるが、全くわからない様子だ。というか近所どころか日本も含め、知名度がある国を挙げても反応が悪い。
状況から察するに…………俺は目が覚めたら見知らぬ土地で寝ていたようだ。
記憶を辿ってみるが、何故ここにいるのかどうしても思い出せない。
どうやって帰ればいいんだろう……?
「そんなことよりこんな場所で寝ていたら危ないぞ」
無言で考え込んでいたが、おっさんの発言に気になる箇所があった。
「危ないんですか?」
「魔物に襲ってくれと言っているようなものだぞ、お前さん強そうにも見えないし」
「たしかにケンカは弱いと思うけど……魔物?」
なんでいきなりゲームみたいな話が……。
「そもそも魔物にやられて倒れてると思ったんだ」
おっさん曰く、よく見たら外傷もないし呼吸もしてたから声をかけた……らしい。
俺は記憶が混乱しているのを正直におっさんに告げ、話を聞いた。
その結果——。
どうやら信じられないことにこの場所、というかこの世界はゲームで言うところの剣と魔法のファンタジー世界のようなところらしい。
もちろん話を聞いた時点では疑っていたが実際、魔物を倒すところを見せられてはぐうの音も出ない。
レベル制、ステータス有りと本当にゲームっぽい。というか本当にゲーム世界なんじゃと疑っているところだ。ゲーム好きの俺からすれば多少ワクワクしてしまうのを否定はできないが、あくまでゲームはゲームだから良いのであって現実とリンクしてしまうと心情的に複雑ではある……。
だが、少なくとも俺このゲーム知らないんだよな。
ゲームならクリアしたら帰れるんだろうか……?
前途は多難だった。
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