第48話:倍六九《バロック》
ダウンバースト。最初から狙っていたのか。元々の原理は知らないが、目の前のプレッシャーは、それを気圧だけでやってのけた。秒速五十メートルを超える暴風が上から下に叩きつけられ。
「梵我反転……
俺がタッチの差異で展開した反転領域が風の鉄槌から周囲を守っていた。時間そのものを固定して、被害を最小限に抑えたのだ。
「なん……?」
もちろん呪術を使いながら呪いの原理も知らない異世界の
「急々如律令。
拳に呪力を纏って、そのまま相手に押し付ける。呪いというには稚拙で、だがそれ故に基本。しかし
「くっ」
狙って出せる現象ではないが、それにしてもといったところ。
「そもそも貴様。この術に理解あるのか?」
「まぁお前よりは知っているな」
誤魔化すことなく俺は言う。実際にその通りだ。異世界だろうと呪術とはセンスがいる技術。鬼が跋扈していたヤマト帝国で鍛えられた俺より呪術に詳しい異世界人がいるのなら、俺はちょっとへこむ。
「なんなら貴様もチャイルド様に忠誠を従わないか? かの御方から更なる高みへ連れて行ってくれるぞ」
「興味ないね」
ふぅ、と息を吐いて仕切り直す。
「では残念なく死ね」
それ以上は勧誘五しても無駄さと悟ったのだろう。実際にその通りだしな。で、大気そのものを気圧上昇でプラズマ化。その高熱の光を放ってくる。
「うざい」
俺はそれを反射する。まっすぐプレッシャー目掛けて飛び、だがプレッシャーも気圧で弾く。よく考えると結構いい術式なんだよな。気圧……というか圧力を操作する術式。仮にヤマト帝国にいたら、甲級術師くらいには認定されているだろう。
「斬」
さらに圧力を細い面積に展開しての疑似斬撃。だがこと物理面における俺の防御能力も大概だ。誇る気もないが相手の手段に決定打が存在しない。
「急々如律令。
三つの凹門呪術を重ね掛けする。瞬間的に相手と間合いを潰す。さすがに凹門呪術による速度は相手も反応できないらしい。
「光熱!」
「
それでも戦慄だけでこっちに対応したプレッシャーの反射能力だけは褒めるに値する。だが既にさらに二つの凹門呪術を重ね掛けして、俺はプレッシャーの側面に回って、懐に飛び込んでいた。
ホロウボースを精製する。そしてそれを蹴りに纏って相手に叩きつける。
「
俺の蹴りがプレッシャーを襲い、そのまま蹴り飛ばす。プラズマによる迎撃を選択していたプレッシャーは、防御が間に合っていない。メシィと音がして、吹っ飛ばされる。
「ちぃ」
なお、為らなかった。
「急々如律令。
「我が信仰を神に捧げ奉る! フレアバズーカ!」
立て続けに間合いを潰そうとする俺。それに対して、今度は埋葬術で対応する。火葬術による爆撃の炎。だが。
「はっはぁ!」
俺はその炎の中を突っ切った。
第一に純粋というか……もはや驚異的なレベルでホロウボースを精製する。元々人間の自我を構成するのがエギオン。これをホロウボースに精製するのが呪術における最低条件。例えるなら石油からガソリンを精製するような。
第二にそれを、異常とも言えるレベルで相手に伝達すること。ジャブによる小手調べではなく決着のフィニッシュブロー。それによって相手を呪うという効率を最大限に発揮する。
「急々如律令。
下から上に拳が振るわれる。真っ直ぐソレはプレッシャーの顎を狙い、相手を狂わせる。だがホロウボースの精製と伝達。その双方を極めていない。
「くっそ!」
愚痴っている暇もない。
「急々如律令。
さらにアッパーが入る。上に向かって飛ぶプレッシャー。その相手に俺も間合いを詰める。空中を踏むくらいどうってことない。問題は
「ぐ……」
相手に俺への攻撃が通じない。それはすでに十分理解しているだろう。俺は術式を反射と説明したが、それも本質ではない。だが仮に説明が十分だとしても、プレッシャーに俺を殺せる手段は存在しない。
「我が信仰を神に捧げ奉る! ドラゴニックバレル!」
瞬間、高熱と言っても追いつかない何かが、俺を襲った。術名から推測するしかないが、それはつまりドラゴンによる一撃。ドラゴンの吐息を再現した火葬術の中でも高位の何かだろう。もちろん俺には関係ないが。
「ふぅぅぅぅぅぅッッッ!」
極限まで集中を高める。ここで必要なのはコンセントレーション。
タタンと空気を蹴って俺は空へと踏み出す。プレッシャーは空中ではバランスを取れない。その彼目掛けて蹴りを放つ。
「急々如律令。
蹴りで地面へと叩きのめす。さらにそこに追撃。
「急々如律令。
その一撃が、俺に全能感にも似た恍惚を与えた。まるでアッパー系の麻薬を使用したような……という表現はあくまで比喩だ。そもそも俺は麻薬をやったことがない。ヤマト帝国では違法だったしな。
九十九・九九九九パーセントの純度の呪いを九十九・九九九九パーセントの伝達率で相手に伝える。六つの九が二つ並ぶが故に
「梵我反転……」
だから、後は俺のターンだ。
「
俺の反転領域が、帝都そのものを包んだ。現れたのは圧倒的な静謐。それによって既に全てのモノが時間を止めていた。
時の止まった世界で、最後の呪い合いが始まる。
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