第29話:難癖


「ああ! テメェ! ふざけてんじゃねえぞ!」


 銀行の運営にも問題はチョコチョコ起きる。その問題解決に奔走するのも俺の仕事だった。今回の問題はカードに記帳された金額が預金より少ないという難癖だった。過去に遡って確認するも、そんな事実は検出されず。ではどうするか。と言うと、こういう時は誓約系呪術が功を奏す。


「では本当に銀行側の不手際だと仰るなら、ここにサインしてください。以降は虚偽を禁止します」


「難癖付ければ金が増やせると思ったんだよ!」


 だろうけどさ。


 中には銀行を貶めるためだけに虚構を申す人間もおり。そうしてドタバタと銀行は運営されていき。


「責任者を出せ」


 俺がテラスでコーヒーを飲んでいると、ひときわ威厳のある人物が現れた。老齢ながら目の鋭さは老けておらず。杖を突いていながら足腰はしっかりしている。


「アーゾル様ぁ」


 助けを求めるように俺を呼ぶ行員。まぁ確かにこれは俺の仕事だ。


「お客様。いかがいたしましたでしょうか?」


「お前がこの店の責任者か?」


「一応は。当行をご利用でしょうか?」


「貴様がやっていることはわしらの権益を犯している。今すぐ取りやめろ」


「そうは仰られても。一応王家に許諾を頂いた正規の商業なのですが」


「王家にだけ認められればそれでいいのか?」


「この国は王国だったはずですが。他に誰の許可を?」


「わかっていて言っているなら大したものだ。褒めて遣わそう」


「お褒め頂光栄です」


 バキィ! と杖の折れる音がした。


「ッッ!?」


 老齢の男。おそらく裏社会のトップだろう。そいつがいきなり振るった杖が俺を叩いて、そして反転呪術で負荷がかかり折れたのだ。俺を撲殺する気だったのか。少なくとも遠慮というものを知らない一撃だった。問題は、俺の陰陽二兎インフィニットは物理攻撃に限定するなら突破することが難しいという一言に尽きて。


「ほう。何かしらの魔術か?」


 動揺していないのか。杖が折れたにしては堂々とからくりを聞く爺。


「然程のモノではありませんよ。呼吸と同じ程度の難易度です」


 俺にしてみればな。


「もう一度聞く。王家にだけ認められればいいのか?」


「それ以外に誰の許可を必要とするのです?」


「よく分かった。ではここに宣言しよう。キャッシュカードとやらを利用している市民ども。今すぐ解約せよ。この私が物申す。以降携帯している人間には制裁を下す」


「本気で仰っているのですか?」


 俺がそう聞くと、ジジイは不敵に笑った。


「何か問題でもあるのか?」


 問題だらけだが、それを言ってもしょうがない。ただ彼らにとってはやり返しているだけなのだろう。そもそも同意なしにキャッシュカードの金銭やり取りは認められていないし、その意味でキャッシュカードからはみかじめ料が払えない。カツアゲの類も全部だめ。つまりマフィアから財産を保護するという意味で、キャッシュカードはほぼ最強なのだ。彼らの権益を犯していることは既に知っていたが、「で?」で終わる話でもある。


「お前ら。キャッシュカードを解約しろ。頷かないものは若い衆が制裁するぞ」


 銀行に来ていた客たちに脅しを含める老人。たしかゴルバニアファミリーだったか。


「どうした? 死ぬよりマシだろう? 殴られないと分からないのか?」


 キャッシュカードの利便性を十全に理解して、だがそれよりもゴルバニアファミリーの脅しの方が怖い。そうしてキャッシュカードを手放そうとする客たち。このままだとマズいな。単純な暴力で経済制裁を行うというこの矛盾。


「…………ママ……彼らは何を言っているの?」


「暴力で我を押し通そうとしているんだよ」


 無理を通せば道理が引っ込むというか。


「わかったか? 道理の無い商売は潰されるのが定めだ。どうしても商売を続けたければ、それなりの誠意を見せてもらおうか」


 誠意ねぇ。


 ルミナスも幼いながらに、相手が何を言っているのか理解しているのだろう。ぶっちゃけ俺はともあれ彼女を敵に回すのは愚策というかなんというか。


「…………もしも」


 言葉にした「もしも」を実現する汚染系統の呪術、畏怖イフ。ドラゴンと五右衛門の中間みたいな日本を代表するキャラクターのもしも匣がある意味で最強とされるゆえんでもある。


「…………もしも……ゴルバニアファミリーの構成員が全員深刻な腰痛になったら」


「「「「「ッッッ!」」」」」


 死ねば、と定義しなかったのはルミナスが最後に残した温情だったのだろう。深刻な腰痛で妥協したというか。それはそれで酷い話だと言わざるを得んのだが。


「が……ぐ……ッ」


 ゴルバニアファミリーのゴッドファーザーが腰を押さえてうめく。どころか、ゴッドファーザーに同行した構成員が、全員腰痛に悩まされていた。多分だが、今王都中のゴルバニアファミリー構成員が腰痛に悩まされているのだろう。腰が痛いって結構致命的なのだ。立つも座るも難しくなり、ただ何もしていないのに激痛に苛まれることになる。


「何を……したぁ……ぁ?」


「おや。具合が悪そうですね。お手伝いしましょうか?」


 俺は営業スマイルを忘れず、頭目にニコッと微笑む。


「痛ッ!」


 マフィアの構成員が全員、腰痛で立てもしない状況になっていた。寝転がるのが一番痛みが少ないらしく、銀行の床に寝そべっている。


「すみませんが。当行の床で寝ないでください。他のお客様の御迷惑ですので」


「いっつ……!」

「いてぇ……」

「なん……これ……」

「腰が……腰が……」


「それで? なんでしたっけ? 銀行利用者に暴力を振るう……でしたか?」


「ああ、そうだ……痛ッ。お前らが筋を通さない限り……いってぇ……」


「そのー。ここが軍警察の隣で、あなた方が恫喝によって違法行為をしている自覚は御有りで?」


「わしを逮捕すると、王都で公権力と裏社会に抗争が始まるぞ?」


「そうですか」


 じゃあその通りにしてもらおう。


「軍官の皆様。このお爺ちゃんの逮捕って出来ます?」


「リスクが高い」


 なるほど。たしかにマフィアとしての地盤は軍警察を思い留ませるだけの何かがあるらしい。


「大丈夫ですよ。ゴルバニアファミリーの構成員は、全員腰痛を患いましたので。戦力で言えば瓦解しています」


「ソレを信じていいものか……」


「じゃあせめて事情聴取の名目で連れて行ってください。逮捕はしなくていいですので」


 なんにせよ、ルミナスの畏怖イフの効果が続く限り、ゴルバニアファミリーの構成員は全員深刻な腰痛で困るだけだ。


「貴様ぁ……ただで済むと……」


「てぃ」


 俺がゴッドファーザーの腰を蹴ると、


「ガァァァァァッッッ!」


 蹴られた腰を押さえて痛がる頭目。


「じゃあ誠意を見せてくださいね。あなた方が何を奪って何を得たのか考えてからもう一度当行を訪れてください」


 別に思い知る程度なら時間なんて必要としないだろうが。













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