第28話:アーカーバンク
『あなたの財産を守ります! 是非ともアーカーバンクに預金なさってください!』
という詐欺だと判断されてもおかしくない看板を掲げて、銀行は始まった。何というか。銀行そのものは説明を要するのだが、それはそれとして需要はあると思いたい。王族も利用しているアーカーバンクというコマーシャルも掲げて、道行く人たちにも興味を持ってもらえるようにあざといこともしている。オールゴール王国で商売をするのだから、国王に許可は貰っている……というかハンドベル殿下に袖の下を渡している。王国としても財産の保護という名目の銀行に眼を付けた……というかやってみても損はないんじゃないか……程度の感覚で許可を出し、今こうして始めているところだ。
ポイントで単位にするとややこしいので日本円と命名した。もちろん一ポイントが一円だ。そのまま王族からも百万円程度の預金をされて、恭しく王様にキャッシュカードを提出。利子は零・五パーセントにしたので百万円預ければ五千円年間で増える計算だ。
「失礼? しまーす」
やはり金銭の問題はどこにでもあるので、銀行は軍警察の本部の傍に置かせてもらった。何か問題があれば警察兵がすっ飛んでくるというシステムだ。
「財産保護とは?」
「ご説明します」
そうして大体勤務形態を理解したダークエルフ数名を行員として採用して、客対応を任せている。分からないところは俺がフォローするが、あまり仕事はない。
端的に言って、銀行に財産を預ければ必ず死守して、その預けた財産と等価のポイントをキャッシュカードに登録。キャッシュカードを持っている者同士であれば、貨幣を介さなくても円でやり取りができますよ。以上。
「ちなみに口座に眠っているお金には年利で零・五パーセントの利子が付きますので」
ニコニコスマイルで行員が説明する。
「えーと。銀行に預けるとお金が無条件に増える……ということですか?」
「ええ、なので預金の額が多いほどお得ですよ?」
「ほわー」
財産を守ってくれる。その上で金額の数値化。ついで預ける金額ほど金が増えるというシステム。一応こっちが何を意図してのことかは教えていないが、それでも初日から客は途絶えなかった。お金を持って銀行の玄関を叩く人が多数。それらにキャッシュカード登録を申し出て、お金を受け取って、同じ額をカードに記帳する。ガーネットの演算は正確で、ギルメートのアルゴリズムは微細に過ぎる。そうして初日は客をさばくだけで精いっぱいだった。およそ来たのは噂を聞き現れた庶民と、それから財産管理を任せようとする貴族。一応金銭のズレは起こさないようにしているが、確認は怠らない。
「うーむ」
「…………うーむ」
一応銀行内に作ったカフェテラスで、コーヒーを飲みつつルミナスとイチャイチャ。俺の最も可愛い娘は、銀行についてはもちろん知らず。俺の生臭い計画にも加担せず。ただコーヒーが美味しいというだけでここにいる。カフェテラスは客にも好評で、客対応の順番待ちの間は、カフェテラスで茶のひと時となっている。カフェの店員は俺が雇っているが、金銭については全て店長に任せていた。俺は紅茶やコーヒーやハーブティーなどを提供する代わりに銀行で働いてくれませんか、と人気の喫茶店のマスターに声をかけただけだ。お茶の生産はこの地方では難しいらしく、茶葉は容易くは手に入らない。そこで俺が供給しますよと言えば、一も二も無く飛びつかれた。
「…………ママ」
「どうかした?」
「…………アーカーバンク……人気」
「このままいけばいいんだけどな」
キャッシュカードの利便性については言うまでもない。あとは普及が進めば。
「おー、四万四千円。つまり年に二百二十円増えるってことで?」
「仰る通りです。またのご利用をお待ちしております」
さて、じゃあ都市部に顔を出してみるか。
「ルミナス。歩かないか?」
「…………お散歩?」
「そ。散歩」
そうしてオールゴール王国の王都。その市場を冷やかす。
「果実の類は……むしろエデンガーデン連邦の方が充実しているな」
当たり前だが。こっちは無制限に季節関係なく生産できるのだ。同じようなことを王国に求める方が無理筋だ。だが肉に関してはこっちが発展していた。ハムやベーコン。肉を長期保存する術に長けているのは人間の業だろう。
「食うか?」
「…………いいの?」
もちろん。ルミナスの我儘は俺の栄養だ。市場に注文して、それからキャッシュカードが使えるか聞いてみる。まだ普及しているとは言い難いが、運が良かったのか使えた。実験の延長線上で市場の承認とキャッシュカードを重ねて金銭のやり取り。あっさりと終わった。三百円ほど払って、ハムを少し頂く。
「うん。美味い」
「…………美味しい」
こういう技術はエデンガーデン連邦にも取り込みたいところだが、精肉業者って招くわけにはいかんかな。
「支払いはカードで」
「こっちではカード使えますよ」
「清算にカード使えます!」
などなど。王都ではカードがどんどん伝播していった。既にカードを使えないとか重力に魂を引かれた古い人だよねー、みたいな空気。もちろんこっちの意図通りではあるのだが、企んでいることを考えると複雑な気分。
「うーむ」
そうしてカード関連が上手くいっても、もちろん不利益を被る存在もいて。
「テメェらの頭を出せ!」
さすがに軍警察の隣で大仰なことは出来ないと分かっているのだろう。そこまでわかって軍警察の本部の隣に銀行を設立させたのだから。
「何か御用でしょうか。お客様?」
俺がニコニコ笑顔で恫喝している人物に声をかける。
「責任者のアーゾルと申します。ご不明点があればご説明いたしますが」
「あぁ! テメェか! こっちのシマで勝手に商売しているのは!」
「なんのことでしょうか?」
「しらばっくれる気かテメェ!」
暴力で今まで食ってきたのだろう。脅しの仕方が一流だ。こっちの胸ぐらを掴んで凄んで見せる。
「お客様。落ち着いてください。我が行は法律に違反する営業は行っておりません。何か大変な勘違いを為されているのでは?」
「じゃあどう弁明する気だ! こっちはみかじめ料を得られないんだぞ!」
「みかじめ料ですか?」
もちろん知っているが、知らないふりで押し通す。
「こっちで商売するんだ。相応の謝礼は貰わないと経済が立ち行かないだろう?」
「そうですね。王家にも許可は取りましたし、何も問題はございません」
「俺たちが問題にしてるってんだよ!」
さらにグイと襟を掴まれる。
「へへ。お前、いい体付きしてるじゃねえか。おい。俺が教育してやるよ」
「性犯罪に該当しますけど。ご自覚ありますか?」
「お前がそんな爆乳でいるのが悪いんだよ! 俺たちシマで勝手に商売したんだ。メリットを提示してもらわないとなぁ……」
俺を見て性欲をたぎらせているところ悪いんだが。
「失礼」
銀行の滞在していた軍警察がニッコリ笑って手錠を見せていた。
「ご苦労様です」
なるほど。これが性的に見られるということか。たしかにあまり心地のいいものではないな。リリスの肉体はステータスだけは立派だからなぁ。
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