第20話:エルダーエルフ
「ナバイア様。イゾルデ様をお連れしました……」
イゾルデとはエルフの王国の民域で別れたままだった。
「入って構いませんわよ」
王国の謁見の間。城と呼ばれるものの無い樹海の中で、それは何処よりも高い場所に作られた王が面会するための場。その謁見の間に、拘束されたイゾルデを連れて沈痛な表情でエルフの兵たちが入ってきて。
「な……っ!」
今の俺とナバイアの状況に絶句する。気持ちはわからないが、何を思っているのかはわかる。今謁見の間の王座に座っているのは俺で、ナバイアはその足置き場となっていた。一国の女王が王座を占領されて踏みつけられている。そのことを理解した兵士たちが殺気立って、俺に砲身代わりの腕を突き出すのだが。
「待ちなさい」
ナバイアのツルの一声で、場を制止する。
「陛下……なんということを……ッ!」
「大丈夫よ。私はむしろ嬉しいから」
「嬉しいって……!」
人に踏まれて嬉しいという感情は中々抱えられるものではない。だがそれでもナバイアにとって俺の足場にされるのは光栄なことなのだ。
「控えなさい。アナタたち。彼女は私たちの王。エルダーエルフ。アーゾル様よ」
「アーゾル……」
聞いたことのない名前だろう。俺も名乗った覚えが無いので、それはいいとして。
「エルフは彼女のために生き、死ぬべき存在なの」
「正気に戻ってください陛下! こんなダークエルフに一国の女王が踏みつけられるなど……!」
「言葉を選びなさい。このお方はエルフの国の統治者。王国を運営している私を全面的に支配しているシャドウガバメントのトップよ」
「しかしッ!」
「文句があるなら聞こうか?」
俺がそう言ってナバイアを踏みつけると、瞳孔を開いて、兵たちが抜剣する。
「やる気か?」
踏みにじられて嬌声を上げているナバイアに足を預けたまま、王座から一切動かず俺は言う。
「今すぐその汚い足を陛下からどけろ!」
「と言っているが。ナバイアはいいのか?」
「ダメです……もっと踏みつけてくださいませぇ。アーゾル様ぁ」
蕩けたような声を出して恍惚としているナバイアの、その声を聴いて正気を疑い、そして兵の一人が俺へと加速する。
「御免!」
容赦なく振るわれた剣は、確実に俺の頭部へと閃き、だがまるで金属でも切ったように弾き飛ばされる。
「アーゾル……」
抵抗を諦めて拘束されたイゾルデもこの場にはいる。自分の母親がダークエルフの足置きにされている現状に何を思っているのかは知らないが、その思いそのものが俺にとっては知ったこっちゃなくて。
「中々いい剣だな」
反転呪術。正確には呪術における五大属性の反転系統に属する……が正しいのだが。俺の術式は物理現象の反転程度は容易くやってのける。もちろん剣で斬られた記憶など、過去を遡ってもあまり覚えていない。
「だったら埋葬術で!」
「ナバイア。お前の兵たちは埋葬術で俺を葬るつもりだぞ。家畜であるお前は……さてどうすべきだ?」
「もちろんアーゾル様の代わりに盾となります。アナタたち、殺すならまずは私から殺しなさい」
「お退きになられてください! ナバイア様!」
「お母様! アーゾルに何を!」
「言ったでしょう? このお方はエルダーエルフ。無条件に私たちエルフを従える最高位の存在なのよ?」
「洗脳でもしたか!」
「まぁアレを洗脳というのなら……そうかもな」
尻を鞭で叩いただけだが。
「さあ、アナタたち。アーゾル様に忠誠を誓いなさい。傅いて永遠の忠義を誓うのです」
「そんなことッ!」
「女王である私の命令が聞けないとでも? ぁん!」
踏みつけられて、最後の悲鳴を上げるナバイア。
「それとも国民に全部バラしますか? あなたたちの女王はダークエルフに忠誠を誓ったドマゾメスブタであると」
「それは……」
「私は構いませんわよ。国民に知られても問題ありませんもの。私の主はアーゾル様だけ。彼女が王国を必要ないと思えば、今すぐにでも滅ぼし能いますわ」
「それでは女王としての威厳が!」
既にそんなものが成立していないのは、果たして論じるに値するのか。
「あなた方がここでアーゾル様に忠誠を誓えば、話はここだけで終わりますわ。女王である私と近衛兵を従える、真なるエルフ王。アーゾル様の栄光は私たちだけの秘密。シャドウガバメントにも等しい秘匿事項ですわ」
「「「「「ぐ……」」」」」
腰に釣っている剣の柄を握って、彼女らは思案する。それこそ切ってもいいのだろうが、さっきの一撃がどうやって防がれたのかを彼女らは知らない。そもそもナバイアすらも説明できないだろう。ただ俺がこういう事をしていながら、それでも相手の出方を窺う必要が無いことだけ理解されていれば俺としては十分だ。
「ここで剣を抜けば、それは即ち国家反逆罪。もちろん処刑しますわ。それともクーデターを起こしてみますか? 女王である私の首を取って、自ら王国を手中に収めると?」
「アーゾル……お前……」
「様をつけろよデコスケ野郎」
嘲るように、俺は言う。あんまりこういうことは趣味じゃないんだが。思ったより演技力はあるらしい。
ノリノリで悪役をやってはいるが、別に俺の本音というわけでもないのだ。
「国民全員に私のこの醜態を晒してもいいのなら、いくらでも反逆なさい。代わりに攻撃したものは処刑しますわ」
「ちなみに、さっきの一撃は不問とする。まだ説明していなかったし。無礼というのも初手は許す。ただし次は無いぞ」
「虎の威を借りる狐……というものを御存知か?」
「ああ、知っているとも。女王の命令に唯々諾々としたがって、偉そうにしているお前たちのことだ」
「貴様……ッ」
「別にこういう事をしなくてもいいんだ。お前らを鏖殺するのに、俺は別にナバイアの助力など必要ない」
「お姉様はその気になれば私もろとも王国を鏖殺できますわ。それと知らないで挑むのなら、お覚悟あそばせ」
「頭が高いぞ」
「「「「「ッッッ」」」」」
このまま反抗しても何も得られない。そうと知って、だがそれでも俺への不信が拭えない……ってところか。その反骨精神は大いに結構だがな。
「五秒やる。傅け」
このまま女王の醜態を晒していいのか。王国におけるナバイアの治世を脅かしていいのか。そこまで考えれば、自ずと答えは出る。屈辱に震えながら兵たちは宣言した。
「「「「「これより王国の真の支配者に忠誠を捧げます」」」」」
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