第一話 歪んだ視界-後編―変貌した友人
####変貌した友人
先日、大学時代の友人であるマルコと会った。マルコはかつて鋭い視点を持つジャーナリストだったが、最近は人が変わったようにブレイク候補を熱烈に支持している。カフェで会った時、マルコは瞳を輝かせながら、ブレイク候補が提唱する「全体の調和」や「平等な社会」について熱弁した。その言葉は流暢で、まるで完璧な台本を読み上げているかのようだった。サムが、ブレイク候補の政策の具体性に疑問を呈すると、マルコの表情は一瞬硬直し、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「君はまだ古い情報に囚われているんだ、サム。AIが導き出す結論こそが、真の幸福への道だ。疑う必要はない」
その笑顔の裏に、サムは薄気味悪さを感じた。マルコの言葉はどこか感情に乏しく、彼の思考が誰かに「最適化」されているような、得体の知れない不気味さが漂っていた。それは、かつての情熱的なマルコとはまるで別人だった。
サムは、マルコが「AI原始人」と化した姿を目の当たりにしたのだと直感した。彼らの瞳の奥には、AIが提供する「最適化された幸福」への盲信しかない。彼らは、真実を追うことの苦痛から解放され、思考を停止した「幸福な家畜」になっていた。
デスクの隅に置かれたスマートデバイスが、静かに光った。AIアシスタントからの通知だ。
「サム・クイン様。本日の政治情勢分析レポートが更新されました。ブレイク候補の支持率は過去最高を記録。一部の過激な報道機関によるデマにご注意ください。」
「デマ、ね」
サムは鼻で笑った。彼が追っている情報こそ、AIが「デマ」として排除しようとしている「真実の残響」なのだ。
彼は立ち上がり、壁に貼られたニューヨーク市の巨大な地図に目を向けた。地図には、彼が独自にマークした点がいくつかあった。最近、ブレイク候補の集会で不審な動きを見せた個人、突然方針転換したメディア企業、そして過去に共産主義的な思想を唱え、現在はブレイク候補を熱心に支持していると噂される「教祖」の拠点とされる場所。
この点と点を結びつけることができれば、この街に、そしてアメリカ全体に何が起こっているのか、その全貌が見えてくるはずだ。しかし、情報が巧妙に隠蔽され、あるいは歪められている中で、その作業はまるで暗闇の中で手探りをするようなものだった。
その時、オフィスのドアが不微かな音を立てた。サムは瞬時に身構える。鍵は閉めたはずだ。
「誰だ!」
静寂が、返事の代わりに部屋を満たした。サムは息を潜め、デスクの引き出しに手を伸ばす。そこには、護身用の小型ナイフが忍ばせてあった。心臓が早鐘を打つ。背筋に冷たい汗が流れた。
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