中二病少女と就活悪魔の奇妙な契約

奈良まさや

第1話

第1章 古本屋の誘惑


中学二年生の沙耶香は、今日もブックオフの古本コーナーを物色していた。マンガから小説まで何でも読む彼女にとって、ここは宝の山だった。


「えっ、これは……」


奥の棚の隅で、彼女の目に留まったのは『実践黒魔術大全』という怪しげなタイトルの古本だった。革張りの表紙に金文字で刻まれたタイトルが、なんとも中二心をくすぐる。


「5,000円……高っ!」


お小遣いでは到底買えない値段に、沙耶香は肩を落とした。しかし、諦めきれずに立ち読みを始める。


「他人を操る魔術……これは覚えておかなきゃ」


彼女は必死に暗記を始めた。呪文の言葉、必要な道具、儀式の手順。店員に怪しまれないよう、時々他の本を手に取りながら、重要な部分を頭に叩き込んでいく。


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第2章 家にあるもので代用作戦


家に帰った沙耶香は、早速暗記した内容を実践しようと決意した。


「短剣……お母さんの料理用ナイフで代用!」

「逆五芒星……画用紙に書けばいいよね」

「ヤギの頭蓋骨……Google画像検索で」

「三俣の燭台……お仏壇のがあるじゃん」


彼女は家中を駆け回って、必要な道具を集めた。本格的な道具がないことなど、中二病全開の沙耶香には関係なかった。


「きっと気持ちが大切なのよ!」


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第3章 やる気満々な定年間近悪魔


夜中、両親が寝静まった頃、沙耶香は自分の部屋で儀式を始めた。暗記した呪文を唱え、手作りの魔法陣に向かって祈る。


「我が名は沙耶香。我、汝を召喚せん! 出でよ、闇の眷属よ!」


すると、突然部屋に煙が立ち込め、魔法陣の中央に影が現れた。


「やった! 成功した!」


煙が晴れると、そこには……スーツを着た中年男性が立っていた。


「えーっと、僕が呼び出された悪魔のベルゼブブ田中です」


「田中?」


「はい、田中です。地獄での通り名ですけど。あー、自己紹介させていただきますと、悪魔歴約600年、今年で定年を迎える予定なんですが、実は再就職を狙ってるんです」


沙耶香は拍子抜けした。想像していた恐ろしい悪魔とは程遠い、どこか人懐っこい中年男性だった。


「再就職って……悪魔が?」


「そうなんです! 最近地獄もリストラが激しくて、定年後の再雇用制度もないし……。でも若い召喚者の方と契約できれば、実績作りになるんです。是非お手伝いさせてください!」

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