第9話 魔王、人間を助ける
「させないわ!」
リリムは、俺の前に立ち塞がった。彼女の身体から、強大な魔力の波動が放たれる。その波動は、冒険者たちの攻撃を弾き飛ばし、彼らを後退させた。
「な、なんだと!?」
冒険者たちは、その圧倒的な魔力の前に、戦慄したように顔を青ざめさせた。
「私が、アレンを傷つける者は許さないと言ったでしょう?」
リリムは、冷たい声で言った。その瞳は、まるで氷のように冷たく、冒険者たちを射抜く。
「魔王の力が、ここまでとは……!」
グスタフは、驚愕の表情でリリムを見つめた。
その隙を見逃さず、俺は剣を抜き放ち、グスタフに向かって突進した。
「てめぇの勝手な思い込みで、俺とリリムの関係を決めつけるな!」
俺の剣が、グスタフの目の前まで迫る。グスタフは、慌てて身をかわすが、俺の剣は彼の頬をかすめ、わずかな血が流れた。
「くっ……!」
グスタフは、俺の素早い動きと、魔力を込めた剣の威力に驚いているようだった。
「アレン、貴様……!」
ライアスが、俺に駆け寄ろうとするが、メルキアたち眷属がその行く手を阻む。
「ライアス様、これ以上は……」
メルキアは、ライアスに剣を突きつけ、彼を牽制した。その目には、リリムと俺を守るという強い意志が宿っている。
広間は、完全に混戦状態となった。冒険者たちと眷属たちが入り乱れて戦い、魔法と剣戟の音が響き渡る。
俺は、グスタフと対峙していた。彼は、ギルドの幹部というだけあって、一筋縄ではいかない。彼の攻撃は、的確で、時には俺の隙を突こうと狙ってくる。
「アレン君、君は間違っている! 魔王と手を組むなど、正気の沙汰ではない!」
グスタフが、剣を振り回しながら叫んだ。
「お前たちが、俺を追い詰めたんだ! 俺に居場所を与えてくれたのは、リリムだけだ!」
俺は、そう叫び返した。俺の言葉には、怒りだけでなく、リリムへの感謝の気持ちが込められていた。
その時、リーファの悲鳴が聞こえた。
「きゃああああっ!」
俺が視線を向けると、リーファが、オークの騎士に追い詰められ、危ない状況に陥っていた。
「リーファ!」
俺は、思わず叫んだ。かつて仲間だった彼女が、目の前で危険に晒されている。
しかし、俺はグスタフと対峙している。すぐに助けに向かうことはできない。
その時、リリムが動いた。彼女は、一瞬にしてリーファの前に現れ、魔力の壁を展開した。オークの騎士の攻撃は、その魔力の壁によって完全に防がれた。
「リリム様!」
リーファは、驚いたようにリリムを見た。
「あなたを傷つけるつもりはないわ。ただ、アレンを悲しませることは許さないだけ」
リリムは、そう言って、オークの騎士に下がれと命じた。オークの騎士は、リリムの言葉に従い、すぐにリーファから離れた。
「リリム様……」
リーファは、困惑した表情でリリムを見つめた。魔王が、自分を助けた。その事実に、彼女の頭は混乱しているようだった。
その隙に、シリルがリリムに魔法を放った。炎の魔法が、リリムに迫る。
「リリム!」
俺が叫んだ。しかし、リリムは慌てることなく、その炎の魔法を素手で受け止めた。炎は、リリムの手の中で消滅した。
「無駄よ。私の前では、あなたの魔法など、赤子の遊びにも等しいわ」
リリムは、冷たい視線でシリルを睨んだ。シリルは、その圧倒的な力に、恐怖に顔を歪ませた。
「な、なんだ、あの魔力は……」
グスタフは、リリムの行動を見て、顔を青ざめさせた。彼の目の前で、魔王が、人間を助け、魔法を無効化したのだ。それは、彼が今まで信じてきた常識を根底から覆す出来事だった。
「グスタフさん、もうやめてください! 私たちでは、魔王様には敵いません!」
リーファが、グスタフに懇願するように叫んだ。彼女の目には、絶望の色が浮かんでいる。
「何を言うか、リーファ! 魔王に屈するなど、冒険者の恥だ!」
グスタフは、そう叫び返すが、その声には以前ほどの勢いはなかった。彼の表情には、明らかに動揺が走っている。
「愚かな人間たちね。あなたたちが、この城に踏み込んだ時点で、もう引き返すことはできないわ」
リリムは、そう言って、城全体に響き渡る声で宣言した。
「この魔王城は、私の領地よ。そして、アレンは私の執事。あなたたちが、この場所を侵すのなら……私は、あなたたちと敵対する覚悟よ」
リリムの言葉は、まるで宣戦布告のようだった。その言葉に、ギルドの冒険者たちは凍り付いたように動きを止めた。彼らの顔には、恐怖と混乱の色が浮かんでいる。
(まさか、魔王が人間と手を組み、そして人間に対して宣戦布告するとは……)
グスタフは、額から冷や汗を流した。彼は、この状況が、自分の想像を遥かに超えていることに気づき始めていた。
広間には、リリムの魔力が満ちている。その圧倒的な力の前に、誰もが身動きが取れないでいる。このままでは、本当に魔王と人間界の全面戦争になってしまうかもしれない。
——そして、この混乱の中、新たな影が、魔王城の地下深くで蠢き始めていた……。
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