第8話 魔王の宣戦布告、そしてギルドの介入

グスタフの言葉に、広間の空気は張り詰めたままだった。ライアスたちはまだ膝をついたままだが、その目は警戒心で満ちている。


「魔王が……人間の味方だとでも言うのかね?」


グスタフが、リリムを鋭い目で見つめた。その言葉には、明らかに疑念と敵意が込められている。


「信じないのなら、試してみればいいわ」


リリムは、挑発するように微笑んだ。その笑顔は、どこまでも無邪気で、しかしその裏には、魔王としての強大な力が秘められている。


「ほう。大口を叩く。だが、我々は魔王という存在を決して容認しない。世界の秩序を乱すものは、排除するのみだ」


グスタフは、そう言い放つと、後ろに控えていた冒険者たちに目配せをした。すると、冒険者たちは一斉に武器を構え、戦闘態勢に入った。その中には、剣士、魔法使い、弓使いなど、様々なタイプの冒険者がいる。彼らもまた、ギルドの精鋭だ。


「やめるんだ、グスタフさん! リリム様は、悪い魔王なんかじゃありません!」


メルキアが、グスタフに向かって叫んだ。彼女の隣では、目覚めたばかりの眷属たちが、戦闘を覚悟して構えている。


「黙れ、魔族! 貴様らの言葉に耳を傾けるつもりはない!」


グスタフは、冷酷な目でメルキアを一瞥した。


「リリム、ここは俺に任せろ。お前は……」


俺がリリムに下がってほしいと促そうとした、その時だった。リリムが、俺の言葉を遮るように、一歩前に踏み出した。


「必要ないわ、アレン」


リリムの声は、広間に響き渡るほど澄んでいた。


「あなたたち人間は、いつもそう。自分たちの都合の良いように解釈し、自分たちの都合の良いように他者を排除する。私が何をしたというの? 私はただ、この城で静かに暮らしていただけ。それを、あなたたちが一方的に侵略してきたのよ」


リリムの言葉に、グスタフは顔色を変えた。


「何を言うか! 魔王は、常に人間にとって脅威だった! 過去の魔王たちがどれだけ人間を苦しめてきたか、貴様は知らぬのか!」


「過去の魔王と、私を一緒にするのはやめてちょうだい。私は私。私と、過去の魔王たちを一緒にするのは、それこそ傲慢だわ」


リリムの瞳に、強い光が宿った。


「アレンは、あなたたちに追放され、この城に迷い込んできた。彼は、あなたたちに裏切られ、傷ついていた。そんな彼を、私が救い、癒したのよ。それが、何だというの? 彼が私の執事になったのは、彼自身の選択よ」


リリムは、俺の腕を取り、グスタフたちに見せつけるように、俺の隣に立っていることを示した。


「あなたたちに、アレンを連れ去る権利はないわ。彼は、私のものよ」


リリムの言葉に、グスタフだけでなく、ライアスたちも驚きを隠せない。特に、ライアスとリーファは、俺とリリムの関係に複雑な表情を浮かべていた。


「ま、魔王が……人間の男に執着するだと……?」


グスタフは、狼狽したように呟いた。彼にとって、魔王とは人間を滅ぼす存在であり、感情など持ち合わせていない、とんでもない怪物だと思っていたのだろう。


「グスタフさん、これは……」


ライアスが、何かを言おうとするが、グスタフはそれを再び制した。


「黙れ、ライアス! いかなる理由があろうとも、魔王と手を組んだ人間は、人類の敵だ! 全員、攻撃開始!」


グスタフが号令をかけると、冒険者たちは一斉に俺とリリムに向かって攻撃を仕掛けてきた。剣士は突撃し、魔法使いは魔法を放ち、弓使いは矢を放つ。

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