#3
帰り際、彼が少し声を張って呼び止める。
『あ!中村さん! ちょっといい? あのさ……中村さんが、もし良ければ……その……』
言いかけて、彼は急に黙り込んでしまった。
私は少し心配になって、彼の顔を見上げる。
「どうしたんですか? 具合、悪いんですか?」
彼は慌てたように首を横に振る。
『あ、いや……そうじゃなくて……中村さんが良ければ、連絡先を……交換してくれないかな、って……』
そう言って、少しうつむいた彼の顔が、ほんのり赤くなっていた気がした。
「全然問題ないですよ! 交換しましょ!」
私は笑ってスマホを差し出し、彼と連絡先を交換した。
『景品、獲れたら連絡するね……じゃあ、また……お疲れさま。』
「お疲れさまでした!」
そう言って彼の背中に手を振る。
私の目に、歩いていく彼の後ろ姿があたたかく映った。
数日後、彼から早速メッセージが届いた。
内容は、私が好きだと話していたキャラクターの話。
どうやら彼も最近ハマり始めたらしい。
そのあと、「おすすめの曲ある?」と訊かれて、
私はすぐに好きなアーティストのデビュー曲を送った。
撮影中に推しが怪我をした話までして、
気づけば、夜が更けていた。
他愛もないやり取りなのに、
彼の言葉の端々ににじむ優しさと気遣いが忙しく張りつめていた私の心を少しずつ、やわらかく溶かしていった。
その夜は、いつもより少しだけ眠るのが惜しかった。
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