第23話 虚ろなる襲撃
俺のピースメーカーが火を噴いて、刀の切っ先をこちらに向けていた壮士風の男の眉間を撃ち抜いた。
「なっ」
と驚愕する隙も与えず、隣の化け鼬の頭も銃弾で吹き飛ばす。
更に迷わず畑向こうに居る三人のところへ移動し(勿論靴裏に仕込んである高速移動の術式を発動させて)、短刀で一人の腹を刺しそのまま上へ掻っ捌き、二人目の頸を切り裂き、三人目は心臓を突き刺した。
一連の行動はほんの一瞬で為された。僅かな抵抗も許さない。
辺りは血まみれ、まだ息がある者も、次期に死に至るだろう。
あ、終わった・・・。
“パン”
俺が手を叩くと、切っ先を向けていた壮士風の男も、隣の化け鼬も、向こうで様子を窺っていた三人の仲間も、同時に地面に倒れ込んだ。
誰も血を流していない。ただ、糸が切れたように、皆が昏倒した。
『ん? どうしたんだ? こいつ等は』
突然、何事も無いのに倒れた憲兵隊の様子に、不審を抱いた玄女がいった。
『ああ、手間だから、ちょっと眠ってもらった。とびきり最悪の幻つきでな』
『マボロシ? 幻術か?』
『ああ。たかが幻、されど幻。俺が思い描いた場面を投影した、超現実的で強烈なやつだから、意識の防衛機能として気絶したんだろう』
俺はそういいながらしゃがんで、倒れている奴の頭に手を触れた。幻覚とはいえ、いきなり自分が殺されたんだから、負荷は相当だ。幻覚の内容を確実に実行可能じゃなきゃ、ここまで効果は望めない。
『ついでに俺たちのことをある程度忘れてもらおう。ここでは誰にも出会えなかった。そもそも誰を追っていたかも覚えていないと』
気絶している憲兵隊の全員に忘却の呪術を施した。
下手に目を付けられると面倒だからな。何も無かった。幻術のことさえ忘れてもらおう。
『記憶を消せる術なんて使えるのか。おう怖い怖い』
玄女が面白がるような顔でいった。
『確かに怖い術だが、いろいろ条件や制約があるんだよ』
まず、術の対象者に十分隙があること、などなど。今は殺される幻覚を見せられて、精神の空隙は半端ない、それどころか空っぽ状態だろう。これなら記憶の操作も楽でいいや。
『さて、これで良し』
『済んだか。早く飯を食いに行こう』
玄女が催促してきた。
お前そればっかりだな。今、襲撃受けたところだっていうのに。
明治幻想奇譚 不死篇 呪術師の章 藤巻舎人 @huzimaki
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